『Fire and the future cat』 CAST ノブ: D : D美: ーホリに赤(火事とも夕方ともとれるような状態) ー焚き火のようなパチパチ音がわずかに聞こえている。 ―ステージ奥は窓付きの壁、窓の真下辺りの位置に机がある。 ―その他、ミニテーブルなど適宜配置(なくてもよい) ー舞台中央、スマホ片手に寝ているノブ ノブ  う〜ん…。 ーその時、着信か何かがあり、スマホの振動音が鳴り響く ー目を覚ますノブ ノブ  うん?…あ、ああ寝ちゃってたか…。(あくび)ふわぁ〜…、と、誰からだ? ーノブ、スマホ操作するが、直後に電源オフ ノブ  ん?あれ??…あ!バッテリー切れか…、そっか、充電し忘れてたもんなぁ…。 ーノブ、充電器を探し、つなげる。 ノブ  何か暑いなぁ…、それに、何か・・・変な匂いもするし・・・。とりあえず飲み物・・・、カラか・・・、なんだよ面倒くせぇな・・・。つか、オレ、何やってたんだっけ?? ー寝ぼけたまま、階下に下りようとドアを開け、部屋から出る。 ードアを開けると火事の音が大きく聞こえる。 ー直後に部屋に戻ってくる。(ドアを閉めると音戻る。) ノブ  何なにナニ?どういうこと?え?コレって何?夢?現実??え?何コレ、何コレ??? ーノブ、夢じゃないか色々試すが、どうやら夢ではない様子。 ノブ  うん、一旦落ち着こう。まず何があったか、何でこんなことになっているかだ。え・・・っと、まず今居るのは紛れもない、自分の部屋だ。二階の自分の部屋だね。で、ドアを開け階段を見ると(ドア開ける)。はい、火事だね。うん、要するに自宅が火事で、オレは二階に取り残されているということだ。ここまでは理解できた。で、ナゼ火事なのか?ってことだね。ええと・・・。 ーノブ、思い出すようにぐるぐる回る。 ーと、その視線に飛び込む作りかけのカップめん。 ノブ  コレだ!そうだ、オレ、腹が減って・・・、でコレ作ろうとして・・・、んで、台所でお湯沸かしている間、自分の部屋に戻って遊んでいたらいつの間にか寝ちまってて…、で、今に至るってことだ。なーるほど!! ー間、その間にもホリの赤や火事の音が少しずつ強くなっている ノブ  納得している場合じゃねぇよ!どうするどうする??火は階段のスグ下まで迫ってきてる。窓からは…。 ーノブ、窓から外を見る、がビビる。 ノブ  いや、高い高い、無理ムリ。えーとそれじゃ・・・、あ!スマホ!! ーノブ、スマホを探す、が充電していることを思い出し、 ノブ  そうだよ、さっき電源切れたとこじゃんか・・・。え?コレってもしかして、絶体絶命!?まじかよ…。 ー頭を抱えるノブ ―その時、机の天板を跳ね上げて、青いほっかむりを被ったDが顔だけ登場 ―驚いて固まるノブ ―周囲を見渡し、首をかしげて机の中に戻るD ノブ  お、おい!ちょっとちょっと!! ―ノブ、机に寄り、天板を開けようとする。 ノブ  ちょっと…あれ?…開かねぇ…。(引き出しを引いて)オイ!! ―引き出しを引いても誰もいない、ただの机。 ノブ  ?あれ?…誰もいねぇや…、うん、まぁ、それはそれで当たり前なんだけれど、さっきのヤツ…、あれ??気が動転して幻でも見たんかな…?…ッ!っとそうだ、それどころじゃねぇんだった!どうするどうする? ―ノブ、考えながらぐるぐると回りだす。 ―そこに再び、今度はゆっくりと静かに天板を開けてDが現れる。 ―Dはほっかむりのほか、青いジャージ、白い手袋、ポケットのついた前掛け風のエプロンをつけ、トランクを持っている。 ―D、ゆっくりと気付かれないように机から出てきて、作りかけのカップめんに向かう ノブ  …うーん、とりあえず一旦スマホを…。 ―机のほうに向き直るノブ、Dを見つける。 ―D、気付かずカップめんを手にして机に戻ろうとする。 ―が、振り返ったところでノブと目が合う。 ―沈黙 D   …記憶にございません…。 ―D,逃げるように机に向かうが遅く、ノブにあっさりつかまる。 ノブ  テメー!何、政治家みたいなこと言って逃げようとしてやがんだ! D   秘書が!すべては秘書がやったことなんですっ! ノブ  現行犯に秘書もクソもあるかこのやろうっ!(ぶんなげる) D   うわーーー…。 ―D、ソデに消えていき、どんがらがっしゃん、というSE入る。…が、反対ソデから再び現れる。(カップめんをどこかにおいてくるとよい) D   …ぁあーーー、天空X字拳(てんくうぺけじけん)!! ―フライングクロスチョップをしかけるが距離が足りず墜落する。 D   ぐえっ! ノブ  何がしたかったんだよ!つーかどうやってあっちからこっちに来たんだよ。 D   …くっ、なかなかやるな…、いいだろう、今日のところは見逃してやる。 ―D、悠々と机に向かう。 ノブ  そうは行くかっ!(首の辺りを捕まえる) D   ぎゃっ!ちょっと、首はやめて!死んじゃうから。 ノブ  お前が逃げようとするからだろ!誰なんだよお前!何でココから出てきたんだよ。 D   …。 ノブ  …。 D   …。 ノブ  …。 D   …あ!俺?? ノブ  お前だよ!お前以外に居ないだろうが!!何だと思ったんだよ。 D   いや…、で、俺に何か用? ノブ  だから、お前誰だよ! D   ああ、えっと…、う〜ん、と、…バタフライ効果って知ってる? ノブ  どうでもいいよ!そんなこと聞いてねぇじゃねぇかよ!! D   いや、あの…、どっから説明したらいいんかな?…あのね、ちょっと名前を名乗ることできなくてね…。 ノブ  ははーん、やっぱりお前泥棒だろ。 D   泥棒…? ノブ  家が火事なのをいいことに泥棒に入ったんだろ! D   え?家、…火事なの?? ノブ  何しらばっくれてやがんだ!そうはさせねぇからな!警察に突き出してやる! D   いや、今それどころじゃなくね?? ノブ  問答無用だ! ―ノブ、Dに飛び掛るが、さっきとはうってかわり身軽なDを捕まえることができない。 ノブ  (息が上がりながらも)な、何だよお前、さっきと違ってネコのようにすばしっこくなりやがって…。 D   そりゃそうさ、俺は未来の世界のネコ型ロ(ボット)…、はっ!!…ゲフン、ゲフフン…、なんでもないよぉ〜。 ノブ  誤魔化しかた下手だよ。なんだよその設定、まるでドラえ…。 D   わー!! ー言いかけたところで、Dに口をふさがれる D   その名前はダメ!出さないで!!いろいろヤバいから。…えーとね、とりあえず俺のことは…、うん、「D(ディー)」とでも呼んで。 ノブ  何でだよ!別に問題なんかねぇだろ! D   だから、さっき聞いたじゃんか、バタフライ効果って知ってる?って。 ノブ  そのバタフライとお前の名前と、何が関係あるんだよ。 D   いや、だからね、まずバタフライ効果って分かる? ノブ  ああ、何かアレだろ?遠くの蝶の羽ばたきが竜巻を起こすとか、そんな感じでちょっとしたことがキッカケで大きな出来事を起こしてしまう可能性があるとかいう…。 D   うん、そんな感じのやつ。でね、俺いま、未来から来てんのよ、だから自分の名前とかそういうの言っちゃったりすると後々面倒になりかねないからさ、それで名乗れないってわけ。 ノブ  待て待て待て!いきなり何なんだよ!未来から来たとか。当たり前みたいにいってるけれどまずそこがおかしいからな! D   え、だってほんとのことだし…。 ノブ  それにそのバタフライ効果ってのが問題なら、今こうして会話してるのだってダメなんじゃないのか? D   えー?これぐらい大丈夫だよー。 ノブ  これぐらいのことでも影響が生じるってのがバタフライ効果の怖いところなんじゃねぇのかよ。 D   だってそんなこと言ったら何もできないじゃんか。 ノブ  知らねぇよ!オレに文句言うなよ、つうかお前が未来から来たってことだって信じてねぇっつってんだよ! D   仕方ないなぁ…、じゃあちょっとだけだよ?(メモ取り出す) ノブ  いや、何だよ、何が始まるんだよ。 D   えぇとね…、今、西暦何年だっけ? ノブ  今年?2016年だよ。 D   えーと…、それじゃ…、あ!コレなんかどうかな?…いや、コレ大丈夫かな?未来変わっちゃうかもしれないな…。なんと!!…2020年、東京オリンピックが開催されるよ! ノブ  知ってるよ!! D   え?もしかしてキミも未来人? ノブ  未来人じゃねぇよ!むしろ情報としては古い部類じゃねぇかよ! D   えー、そうなの?? ノブ  2013年頃だったらホットな話題だったけどな。 D   あ、それじゃあね、…コレすごいよ、言っちゃまずいかも、…なんと、一度決まったオリンピックのエンブレムが変わるよ。 ノブ  パクリ疑惑のヤツだろ!知ってるっての!! D   え?もしかしてキミも未来人? ノブ  違うよ!だから情報が古いんだよ、それなんか去年の話題だわ!! D   それじゃ(トランクを探して)…コレもうダメかもしんない、誰か消えちゃうかもしんないけど…、…じゃーん!!来週の少年ジャンプ!! ノブ  え?まじで!! D   まじで。 ノブ  うわっ!本当だ。え?何、コレまじで来週の、今度の月曜日に発売のやつじゃんか!!ていうか何でこんな、超近未来の少年ジャンプなんだよ、来年のとか、もっとずっと先のやつねぇのかよ。 D   いやだって、そんな先のだと本物だって信じてもらえないじゃんか。 ノブ  まぁ、確かにそうだな…。 D   それにコレより先はさすがに中本商店にだって置いてないし…。 ノブ  は? D   いえ、何でもないです…、とにかくコレで俺が未来から来たと信じていただけたと思うけれど…。 ノブ  まだちょっと怪しいけどな…。 D   とにかく、まぁそういうことで。 ノブ  ま、いいけどさ。 D   それで…、そういやアレなんですけど…。 ノブ  アレって何だよ。 D   いや、何か、大事なこと忘れてない? ノブ  大事なことって? D   いや、さっき家が火事だとかなんだとか…。 ノブ  家が火事?…ぁああ!そうだよ家、火事なんだよ!!逃げ道ないし、スマホも充電切れてて絶体絶命のピンチなんだよ!! D   へー、それは大変ですね。 ノブ  そうだ!なんかないのか!! D   え?何が? ノブ  ほら、秘密の道具的な何かが。 D   えー!それはマズいよ、さっきも言ったとおり、あんまり関わっちゃうとさ…。 ノブ  いや、そんなこと言ってる場合かよ!だってこのままだとお前だってヤバいんじゃねぇのか? D   え?何で?? ノブ  何でって、お前だって逃げらんねぇじゃねぇかよ!! D   ああ、それは大丈夫。 ノブ  ん?何で? D   だって…、ホラ…、未来から来てるから…。 ノブ  …。 D   …。 ノブ  え…っと、いや、何かしらの道具があるからとかじゃ…? D   だから道具は使わないって。 ノブ  あ、その、未来から誰か助けに来てくれるっていう…。 D   いや、ないない。いくら未来だからってそこまで都合よくない。 ノブ  うーん…、えっとさ…。何?キミたちは過去の世界で死ぬことはないの? D   え?あるよ、恐竜時代にいって踏み潰されましたー、なんて事故、しょっちゅうだよ。 ノブ  そう…だよね…、もちろん体に火が燃え移ったら…。 D   ひとたまりもないだろうね。そんな燃やされても大丈夫な技術、未来にだってないよ。 ノブ  …つまり、お前もこの火事に巻き込まれたら? D   まぁ、焼け死ぬよね。 ノブ  ん?じゃあお前が逃げられなくても大丈夫っていう根拠は? D   だから未来から来てるからだって! ノブ  いや、繋がんねぇだろうが!そこに!! D   え?何が?? ノブ  だから過去の世界でも死ぬことあんだろうがっ!! D   そうだよ、恐竜時代で踏み潰されるなんてしょっちゅうだよ!! ノブ  燃えたら死ぬんだろ!! D   ひとたまりもないよ!! ノブ  じゃ、ここにいてお前が助かる根拠は!? D   未来から来てるからだよ!! ノブ  だからそれが理由になってねぇっつってんだよ!! D   何だよ!何が言いたいんだよ!! ノブ  例えばオレが今からお前のことを、燃え盛る炎に突き飛ばしたらどうなるんだよ! D   焼け死ぬに決まってんだろ! ノブ  未来から来てんのに? D   未来から来てようが…、ん?…あ、そうか、そういうことか。なぁるほど。 ノブ  遅せぇよ!理解すんのがっ!何だこの無駄なやりとり。 D   いやー、中学や高校の頃ってさ、何か知らないけどナゼかあったじゃん、おれだってやればできるんだ、まだ本気出してないだけなんだ。っていう謎の万能感。あれの延長みたいなもんでさぁ…。 ノブ  いや、何のハナシだよ!聞いてねぇからそんなこと。それよりちょっとはアセれよ! D   大丈夫!何しろ私は未来から来たアレ型のアレだからね。 ノブ  もう何がなんだか…。 D   ここを脱出するために必要な何かを出してあげようじゃないか。何でも言ってくれたまえよ。 ノブ  一気に設定が雑になったな。バタフライ効果とかどうでもよくなってんじゃん。 D   尊い命を救うためなら、未来を変えることになっても私は後悔しないっ! ノブ  カッコいいこと言ってるけどお前、自分が助かりたいだけだからな。 D   さぁ、何が必要なんだい? ノブ  そうだな…、やっぱりまずは逃げられるように、ハシゴか何かないか? D   もちろんあるとも! ノブ  おおっ!これで一気に脱出だ! D   てれれってれー。 ーD、エプロンのポケットから縄ばしごをだす。 ーが、短い ノブ  よーし、これで…、って短けぇよ! D   いや、これでもよく入ったほうだよ、このサイズのハシゴがこの中だよ。 ノブ  収納力なんか今どうでもいいんだよ!脱出できる何かが必要だろ! D   長いのがいいの? ノブ  当たり前だよ!あれでどうやってここから逃げんだよ! D   じゃあ…てれれってれー。長い「ふがし」。 ノブ  うわっ!長っ!…で、コレが何? D   ん?長いのがいいっていうから…。 ノブ  長けりゃいいってもんじゃねぇよ!こんなのギュって掴んだらグニャってなるだけだろうが! D   まぁ長いとはいえ「ふがし」だからね。 ノブ  それに長いったって、「ふがし」としては長いってだけだしな。 D   脱出するには圧倒的に長さ足りてないよね。 ノブ  いや、お前が言うなよ。…だから脱出できる道具だよ!長くて強いやつ。 D   ったく注文が多いなぁ…。 ノブ  一応言っとくけど、(ふがしを示し)この長さじゃダメだからな。ちゃんと脱出で     きるレベルで長いやつだかんな! D   分かってるって…、てれれってれー、カーボンナノチューブ!! ノブ  おお!一気に未来っぽくなった。 D   これがカーボンナノチューブ製の糸だよ。髪の毛よりも細く鋼鉄よりも強度が高い繊維で、宇宙エレベーターの実現に不可欠な素材といわれているよ。 ノブ  へー、やっぱり未来の世界にはあるのか?宇宙エレベーター。 D   ゲフフン。これなら強度もばっちりさ! ノブ  何でそういう部分は言わねぇんだよ! D   バタフライ効果が…。 ノブ  分かったよ…、じゃ、これを伝っていけばいいんだな?(窓開けて準備はじめる) D   うん、でも気をつけて。 ノブ  何を? D   繊維が細すぎて、指切れちゃうから。 ノブ  ダメじゃねぇか! D   助かるためには指の一本や二本…。 ノブ  オレの予想だと全部もってかれた挙句、地面にどーん!だよ!…ったく、どこにでも行ける…何か…あのドアみたいなヤツとかねぇんかよ。 D   あー、今故障中で…。 ノブ  そういうところは都合よくアレと一緒な感じなんだな、じゃ、そうだ、なんか飛べるようなものはないのか? D   飛べるもの? ノブ  そう、あの、頭につけるプロペラのようなやつとか…。 D   うーん、そういうのはないけど…、あ!でも、ロケットならあるよ。 ノブ  おお! D   ロケット作成キット!!(ペットボトルロケットのやつ) ノブ  これが・・・。ってペットボトルロケットじゃねぇか!!小学生の工作かよ!未来の道具ですらねぇし…。これでどうやって脱出するんだよ!! D   だって飛べるやつって言ったじゃん。 ノブ  俺ごと飛べるやつな!?分かってるだろ?今、脱出する方法を模索してんだよ。いまココでペットボトルロケットなんか飛ばして、何か打開策あんのかよ! D   ほら、スモールライトとかあれば乗れるんじゃないの? ノブ  え?あんの? D   いや、ないけど! ノブ  ねぇのかよ!ムダに期待させんじゃねぇよ!しかもハッキリとスモールライトって言っちゃってるし。 D   あれってさ、人間は体の一部が当たっただけで小さくなんのに、なんで地面とか建物とかは小さくなんないんだろうね? ノブ  言うな!そういうこと。…ったくロクな道具がねぇじゃんか。 D   まぁ、押してだめなら引いてみな、ってコトじゃないか? ノブ  何だよそれ…、あ、そうか!逃げることばっかり考えていたけど、火を消すっていうのもひとつの手段だよな。何かあるのか?火を消せるもの。 D   あるかなぁ…?ん?(メモ見て)柿は柿でも、火を消すことのできる柿はなぁに? ノブ  なぞなぞやってる場合か! D   いいから答えて! ノブ  火を消す柿?柿…、カキ…、消す…カキ…、あ!消火器!? D   ピンポンピンポン、正解! ノブ  …。 D   …。 ノブ  いや、何だよこれ。 D   いや、なぞなぞに正解すると、その答えのものが出てくるっていう…。 ノブ  まじか!一気に解決じゃねぇか! D   よし!出てきた、コレだ!! ―D、取り出したものは、小さな柿 ノブ  …何だこれ…? D   ええと…。 ノブ  …柿じゃん。 D   柿だね。 ノブ  消火器じゃないじゃん。 D   いや、ホラ、小さいでしょ? ノブ  うん、小さいね。 D   だから、小さい柿で、小・柿。 ノブ  …。 D   …。 ノブ  …。 D   しょう、かき…。 ノブ  なめてんのか! D   いや、コレは俺のせいじゃないよ、俺だってこんなサムい展開になるなんて想像だにしてなかったもん。 ノブ  ちくしょー、何なんだよ、まったく…。 ―へたりこむノブ D   …何か、あの…、ごめんね。 ノブ  いいよ、別に。元々自分で撒いたタネだし…、こっちこそ巻き込んじまったうえにアレコレ文句つけて悪かったな。 D   別に、気にしてないよ。 ノブ  ま、ここで終わるのがオレの人生なのかもな? D   ん? ノブ  さっきさ、お前言ってたろ。中学とか高校の頃って、謎の万能感があるって。 D   え?ああ、うん。 ノブ  オレにもあったよ、そんな時期。っていうかさ、ずっとそんな時期だった。で、気がつきゃ大人になってた。やりたいことも見つからないまま。自信だけは人一倍あって、仕事内容や給料にいちいち難癖つけては働かない言い訳をして…。少しはアセれよ!ってアセらなきゃいけなかったのはオレだよな…。 D   …。 ノブ  働きもしないで親のスネかじりつづけて、厄介払いされるように親戚が昔住んでいた空家に放り出された。そこでも相変わらず働かないで、挙句の果てに火事だもんな、親にとっちゃいい迷惑だよな、こんな子供。 D   まあ、そうだな。 ノブ  ははは、否定しねぇんだな。 D   でもさ、今からでもできることはあるんじゃないのか? ノブ  その道も、もうなくなっちまうじゃねぇか。 D   自信だけは人一倍、あるんだろ?アセらなきゃいけないって気付いたんだろ?!だったらまだ諦めるには早いんじゃないのか? ノブ  そんなこと言ったって、どうすりゃいいんだよ。ここにあるのは役にたたないものばかり。逃げることも、助けを呼ぶこともできない。どうしようもないじゃないか。 D   決め付けんなって。本当に役にたたないものばかりか?本当にもうできることはないのか?…まだ、本気を出していないだけなんじゃじゃないのか? ノブ  だって見てみろ、ここにあるのは…、ペットボトルロケット…、強靭な糸…、短い縄ばしご…、長いふがし…、小さな柿…、こんなもので…。 ーノブ、ひらめく(閃き音) ノブ  あれ…、もしかして、コレをこうして…、こうして、コレをこう使えば…。 D   何か思いついたのか? ノブ  ああ、ちょっと手伝ってくれるか?もしかしたらいけるかもしれない。 ―ノブ、Dにイメージを伝え、協力して脱出装置を作成する。 ノブ  (作りながら)…そういやさ。 D   (作りながら)ん?何? ノブ  あんたの居る未来ってどんな世界になってんの? D   いや、だから詳しく話せないんだって。 ノブ  うん、詳しくなくていいからさ、ざっくりこんな風になってるっていう、なんて言うか、イメージを教えてもらえたらなって思ってさ。 D   あ、ああ…、うん、…そうだな…。 ノブ  何だよ、イメージくらいならいいじゃんか。 D   あぁ、…うん…。 ノブ  …あんまりよくない世界なのか? D   い、いやそんなことないよ、未来だもん、素晴らしいに決まってるじゃんか。 ノブ  いや、未来だからって素晴らしいと決まっているとは限らないけれどな。 D   大丈夫大丈夫、素晴らしいから。車は透明なチューブの中を走っているし、住宅 はマチ針のような形をしているし、みんな全身タイツのような服を着てすごしているよ。 ノブ  イメージが古いし、むしろ嫌だよその未来。 D   ブレーキランプを五回点滅させてアイシテルのサインを送ったりするよ。 ノブ  それドリカムの歌じゃねぇか! D   まぁそんな感じ。 ノブ  いや全然わかんねぇよ!…ま、平和な未来ってことか…。 D   …。 ノブ  よし!こっちは大丈夫だ。そっちはどうだ? D   うん、コッチもOK。 ノブ  よーし、それじゃ配置につくぞ。 ―照明が変わり、NDエリア(窓の近く)  地上エリア(舞台前方下手側エリア)  D単独エリア(舞台前方上手側)に分かれる D   よし、準備はいいか? ノブ  ああ! D   発射!! ーDが発射の動きをとると、ペットボトルロケットの発射音が入る ノブ  よし!うまくいった! D   じゃあ次はお前の番だ。 ノブ  ああ、よし、行くぞ!! ーノブ、縄ばしごをロープウエイのリフトの要領で構え、窓の外に向かってジャンプする。 ―D、窓の外を眺めながら実況 D   おー、うまく滑ってる…、あれ?縄ばしごヤバくない?…あ!あー…落ちた! ノブ  (声のみ)うわぁー…。 ードシンという落下音のあと、ノブ、地上エリアに登場する。 ―その間に、D、D単独エリアに移動し、NDエリアの照明が消える。 ノブ  いてて…、でも何とか助かったぞ。 D   おおーい、大丈夫だったかー? ノブ  ん?…あ、ああ、こっちは大丈夫だ! D   そうか…、そいつはよかった…。 ノブ  …。 D   …。 ノブ  …。 D   …。 ノブ  いや、早くお前も来いよ! D   …俺は…大丈夫だ…。 ノブ  何言ってんだよ!大丈夫なワケないだろう? D   大丈夫だよ…、もうキミが助かったから…。 ノブ  は!? D   本当はさ、キミ、この火事で死んじゃう予定だったんだよ。 ノブ  え…? D   だから確実に助けられる道具でキミを助けることはできなかったんだ、それは、ルール違反だからね。 ノブ  ルール違反? D   でもキミは助かった。およそ脱出とは関係ないような道具を組み合わせて。キミはキミのひらめきを使って、キミ自身の力で助かったんだよ。 ノブ  …いや…よくわかんないけど、…そんなことよりとにかく今は脱出が先だろう?こっちに来いっての! D   (アタマを横に振り)…もう、命は引き換えられたんだよ…。 ノブ  何だよ、引き換えられた、って…。 D   過去に行った人間が絶対にやってはいけないこと、それは死ぬはずの人間を助けることだ。未来の世界に確実に大きな影響を与えてしまうからな、それに…。 ノブ  それに? D   助けた人間は、その代償として命を失う。 ノブ  …え…? D   理由は分からない、でも、きっとそういう感じで世界は均衡が保たれているんだろうな、よくわかんないけどさ。 ノブ  何だよそれ…。 D   いや、だから理由はよく分かんないんだよ、俺たちにも。 ノブ  …何でそこまでして、俺なんかを助けてくれたんだよ! D   あぁ、…偶然だよ。 ノブ  …偶然? D   実はさっき話した未来の話なんだけどさ…、アレ、全部嘘。 ノブ  分かってるよ、改めて言ってもらわなくても。 D   俺がいた本当の未来、そこは憎しみと苦しみ、争いと飢餓の世界さ…。 ノブ  …それって…。 D   …戦争だよ。 ノブ  …。 D   もうずっと…。誰が何のために始めたのか?一体いつ終わるのか?もう誰にも分からなくなっちまっている…、そんな世界で生きていれば、どうしたってアオリを食らっちまうもんだろう? ―D、ほっかむりや手袋を外す。そこには戦争に巻き込まれた傷跡が刻まれている。 ノブ  …何だよ…。 D   まぁケガは見た目ほど大したことは無い…、けど、体のほうはもう蝕まれている。元々、そんなに長く生きられる体じゃなかったんだよ。だからさ…。 ノブ  何だよ!なんなんだよ!いきなり話が重いんだよ!さっきまでバカやってたのに、何だよいきなり戦争って…。 D   …ああ、悪いな…。 ノブ  それに、お前さっき俺に言ったじゃねぇかよ!諦めるのはまだ早いとか、まだ本気になってないんじゃないのか、って。だったらお前はどうなんだよ! D   …そうだな、すまない。 ノブ  謝るんじゃねぇよ!諦めるんじゃねぇよ!お前も本気を出せよ! D   (笑う) ノブ  何笑ってんだよ! D   お前に会えて本当に良かったよ。お前は面白いヤツだ。こんなところで人生が終わるなんてもったいないじゃないか。 ノブ  …。 D   それに俺は命を失うんじゃない、託すんだ。 ノブ  …託す…。 D   意味の無い戦争なんか起こらない、明るい未来に変えてくれ。 ノブ  そんな…、そんなこと、俺一人にできるかよ!そんな重い話聞かされて、俺に何しろって言うんだよ!…ムリだよ…。そんな…。 D   何言ってんだ、お前ならできるさ…、この危機的状況だって、乗り越えてみせたじゃないか? ノブ  …でも…。 ―地鳴りのような音が響く D   もう時間がないようだ…、大丈夫、自分を信じろ。それじゃ頼んだぞ、ノ…。 ―地鳴りが轟音に変わりノブのエリア以外、照明OFF ―ノブ、轟音の中、何かを叫ぶがかき消される ―やがて暗転。 ―家のあった場所 ―焼け落ちたものの中、机がきれいに残っている。 ―その傍らにDのトランクも置いてある。 ―そこにノブ、やってくる。 ノブ  …。…あ!机は無事だったか、よく無事だったなぁ、でも…、他は全滅か…。…はぁ、何もかもなくなっちまったなぁ…、これからどうすっかなぁ…。 ―ノブ、机の前に寝転がる。 ―両手を広げたところに丁度、Dのトランクが当たる。 ノブ  ん?…あれ?こいつも無事だったのか…、…明るい未来に変えてくれ…、か。そうだよな…。託されたんだもんな…。こんなところでのんびりなんてしてられないよな!…よしっ! ―ノブ、立ち上がり、気合を入れる ノブ  っていうかコレ、他に何か入ってんのかな…?…もう居ないし、…いいよな? ―ノブ、トランクを開け、中のものを取り出す。 ノブ  なんだコレ…?白いネコのぬいぐるみ、「みーちゃん」?…あと…、どらやき?…それと、なんかタケトンボみたいなやつと…、何だこの…、白い、三日月のようなやつ…。はっ!もしかしてコレ…、スペア?スペアのアレ??っていうことはやっぱりあのオッサン…、ドラえ…! ―ノブのセリフを遮るように、机の天板が跳ね上がり、D登場 D   だからダメだって!! ノブ  うわぁっ!…ってアレ? D   名前言っちゃダメだし、そもそも人のモノ勝手に見ちゃダメでしょうがっ! ノブ  いや…、何で居るの? D   えぇ?居るよ! ノブ  『居るよ』じゃなくて、何でだよ!命が引き換えられたー、とか、代わりに命を失うー、とか言ってたじゃんかよ! D   うん。 ノブ  生きてんじゃんかよ! D   うん。 ノブ  『うん』じゃねぇよ!え?何?俺騙されたの?? D   いや、そうじゃなくて…、う〜んと、だからその、よく分かんないって言ってたじゃんか?なんでそうなるかってとこでさ。 ノブ  ああ。 D   だからぶっちゃけ、よく分かんないんだよね。 ノブ  いや、納得できるかぁっ! ―ノブ、Dのアタマを叩こうとするが、紙一重で避けられる。 ―が、青いほっかむりがとれる。そこには先ほどの傷跡はない。 ノブ  くっそぉ〜、避けんじゃねぇよ!…ん?あれ? D   どうした? ノブ  お前、アタマのキズ…。 D   ん?キズ??アレ??? ノブ  ないじゃん。 D   ないね。 ノブ  何でだよ。 D   …何でだろ? ノブ  …。 D   …。 ノブ  はっは〜ん、そうか、そういうことか。 D   え?どうしたの? ノブ  さっきまでのシリアス展開はすべて茶番だったというわけだな。 D   え?いや…、え?そういうことなんかな?あれ? ノブ  しらばっくれやがって!このやろう! D   うわっ!ちょっと待てって! ―Dとノブが追いかけっこするが、再度机の天板が跳ね上がり、黄色いほっかむりにリボ ンをつけたD美が登場する。 D美  コラ!クソ兄キ!いつまで遊んどんねん!さっさと来んかいっ! D   ド、ドラ…。 ―D美、ハリセンでDを叩く D美  カタギのモンがおる時に名前言うたらアカンて何度も言うてるやろが! D   …ごめんなさい…。 ノブ  え?あの、えーと…、…どちら様?? D美  あぁん!? D   あ、コイツは俺の妹でドラ…。 D美  (ハリセン)言うな、言うとんねん!学習能力ナシか!? D   …ごめんなさい…。 D美  わしゃコイツの妹じゃ、兄キが世話んなったのぉ。 ノブ  妹!?え?妹なの??いや、それはいいとして…、つーか何で妹、関西弁? D美  色々あんのじゃボケ、プライベートに踏み込んで来んなや、いてまうどコラァ! ノブ  …ごめんなさい…。 D美  …せやけど…、ありがとな。 ノブ  え?何が?? D美  お前のおかげで、兄キもワシも達者で暮らせるようなった。 ノブ  へ?何それ、どういうこと?? D美  (Dに)ホラさっさと乗れや!日が暮れてまうど! D   …はい、すいません…。 ―机の中に入り込むD ノブ  って!え?どこ行くんだよ!さっきの言葉、どういう意味?ちょっと…。 ―天板が閉じる前に机に駆け寄るノブ、机の中を見る ノブ  !え?何だコレ!?…こ、これってもしかして…! D美  (出てきて)兄ちゃん、やってもうたなぁ…。 ノブ  やってもうたって…、あ!これ?見たらダメなやつだった?このタイムマ…。 D美  (制して)おぉっと…、まぁアレや、ちょっとムコウでハナシしよか? ノブ  何何?怖いんだけど。 D美  まぁまぁ、すぐ終わるから…。 D   (出てきて)あちゃー、すいませんが一緒にきてください。 ノブ  え?いや、やだよ、絶対沈められるパターンじゃんか。 D   いや、そんな手荒なマネはしませんって。 ノブ  さっき「あちゃー」とか言ってたじゃん、ムリムリ絶対ムリ! D美  安心せえ、お前さんが変えた未来、見に行くだけや。 ノブ  え…。 D   そういうことです。 ―ノブ、DとD美につかまれ、机の中に押し込まれる ノブ  え?ちょっとちょっとー!本当に大丈夫なんだろうな!? D美  ほな行くで! D   それじゃ、しゅっぱーつ! ―DとD美も机に入り、タイムマシンが動くようなSEの後、   (幕)