『群青の魔法少女』 作:伊佐場 武 【登場人物】 アイリス(魔法少女): スズカ(人間): ラン(ドラゴン): ―スズカの部屋 ―中央に祭壇、床には魔法陣が描かれている ―そこに魔導書と怪しげな草を持ったスズカ登場 スズカ  ええと…、これでいいのかな?これであってる?? ―魔導書と部屋の状況を見比べるスズカ ―確認作業中、所々で怪しげな草を配置する。 ーその最中、魔法陣を踏んでしまったり、祭壇のものが倒れたりする。 スズカ  うわ!…(祭壇を直しつつ)…ここだっけ?これで合ってたかな?…うん…大丈夫…だよね…多分…、それじゃ…(魔導書をめくり)…ええと…、黒き…あ、じゃなかった…暗き…、暗き世界より、我が身を糧とし…、贄とし…?かて?にえ?…どっち??(空中になんとなく漢字を書いて)これって生贄の贄って字だよね、だから…、うん、「にえ」だ。我が身を贄として、現世(げんせ)に…、ここは「げんせ」かな?「うつしよ」?これはさすがにルビふってくれないと分からないよ…、んー、でもこういうのは気持ちだし、意味が通れば大丈夫かな?うん、そうだよね、それじゃ改めて、…暗き世界より、我が身を贄として、現世に来たれ。そして我が願いを叶えたまえ…。 ―間 スズカ  …あれ?出てこないや…、何か間違ったかな??…ん?あ!あれかな?もしかして、何か召喚石的な何かが必要ってこと??うわー、課金かぁ…(スマホ取り出し)ていうか課金先どこよ?サイゲームス?ハッピーエレメンツ?コロプラ??えー…ん? ―スマホで検索してると、突如派手目な照明と魔法な感じのSE ―だが、特に何もないまま、照明とSE終了 ―少し間 スズカ  え?何なに?何いまの??今の何??なんかいかにも召喚成功しましたー、みたいな音と明かりだったけど…。え?あれじゃないの?SSR確定のアレじゃないの?…何も出てこないってなんだよー!運営―、詫び石よこせー!。 ―スズカ、愚痴を言っている間にチャイムが鳴る スズカ  ん?なんだろ??はーい。 ―スズカ、上手のソデに向かう(はけない) アイリス (声のみ)どうも、こんにちわー! スズカ  え?な、何か用ですか…? アイリス (声のみ)用があるのはそちらでしょ? スズカ  は? アイリス (声のみ)とりあえず、失礼しまーす。 スズカ  え?ちょ、ちょっと勝手に入らないでください。 アイリス (登場)いいからいいから…、(祭壇見つけて)あ!やっぱり!! スズカ  ちょっとあなた、一体なんなんですか!出てってください! アイリス えー、自分で呼んだのにー? スズカ  何の話ですか?呼んでなんかいませんよ。 アイリス だって(何らかの紋章見せて)ほら! スズカ  ?何ですか? アイリス (紋章)コレと(魔法陣)コレ。ね? スズカ  ?…はい…。 アイリス うん、それじゃ(適当な場所に座る) スズカ  いやいやいや、何ですか?(立たせて)出てってくださいって。 アイリス いや、だから…コレとコレだよ?ほら、ちゃんと見て!ね? スズカ  はい、まぁ、それは…。 アイリス うん、それじゃ(適当な場所に座る) スズカ  いやだからちょっと待て、くつろぐな!(立たせる)その微妙なニュアンスで伝える感じのやり方やめてくんない?分かんないから。ちゃんと説明してよ。 アイリス えー、めんどくさいなぁ…、だから…、この、私の付けてる紋章、コレ、ね? スズカ  うん。 アイリス それと、ここに書かれてる魔法陣、コレ。 スズカ  うん。 アイリス この二つ、よく見て、一緒でしょ? スズカ  え?どこ?どれ??…あ、ああ、言われてみれば…。 アイリス で、(祭壇さして)ほらコレ。ここで召喚の儀式やってたんでしょ? スズカ  うん。 アイリス つまり、その結果やってきたのが、私ということなんです。 スズカ  え?ああ、そうなの? アイリス うん、だってホラ、コレとコレ、同じでしょ? スズカ  それは、まぁ、確かに…。ん?あれ?でもちょっと待って。 アイリス 何ですか? スズカ  あのさ、あなたってさ、召喚の儀式でやってきたんだよね? アイリス うん。 スズカ  え?こういう感じなの??思ってたのと違うんだけど。 アイリス こういう感じ、とは?? スズカ  いや、普通はさ、こういうのってさ、魔方陣がぴかーって光ってここから出てくるイメージあるんだけど…。 アイリス うん。 スズカ  違うじゃん、全然。え?何?実際はこんな感じ?こんな訪問営業みたいな感じなの? アイリス うん、だって瞬間移動の魔法とかまだ使えないし。 スズカ  使えないんだ。 アイリス あ、でもあれだよ、ちゃんと魔法は使ったんだよ。 スズカ  え?あ、ああ、ここまで空を飛んできた、みたいな? アイリス いや、移動は徒歩だけど…。 スズカ  歩きかよ!そんなの魔法じゃないじゃん。 アイリス 魔法じゃないよ、歩きだもん。 スズカ  だってさっき魔法使ったって…。 アイリス 魔法はそこじゃなくて、何か私が来る前にピカー、とかファーみたいな感じなかった? スズカ  何よ、ピカーとかファーって…。 アイリス 何かこう、ピカピカ―ってなって、ホワホワーっていう感じの…。 スズカ  ちょっと表現変わってんじゃん。 アイリス 何か、こう、何かが出てくる感じの…。 スズカ  何かが出てくる感じ…?あ、そういえばさっきSSR確定演出みたいな感じの光り方してたけど…、もしかして、アレ? アイリス SSR確定演出? スズカ  うん、何か年末のIKホームみたいな感じの。 アイリス う…ん、それはよく分かんないけど、それかな? スズカ  え?あれが魔法だったの? アイリス うん、多分。 スズカ  何のために? アイリス 何か期待が高まる感じがするでしょ? スズカ  何それ、無駄魔法じゃん。 アイリス 無駄魔法とか言わないで!哀しくなるから。とにかく魔法云々は置いといて、あなたに呼ばれて私はここにやってきたの。 スズカ  ん?あ、ああ、そういえばそういう話だったね。じゃああなたって悪魔なんだ。 アイリス え? スズカ  え? アイリス え? スズカ  え? アイリス …。 スズカ  …悪魔…だよね…? アイリス いや…悪魔じゃ…ないけど…。 スズカ  え? アイリス え? スズカ  え? アイリス え? スズカ  …え?悪魔じゃ…ないの…? アイリス はい、悪魔じゃ…ないです…。 スズカ  …え?じゃ、アンタ誰よ? アイリス よくぞ聞いてくれました、私の名前はアイリス。魔法少女、アイリスよ!(キメポーズ) スズカ  魔法少女…? アイリス うん!(キメポーズ) スズカ  …魔法少女…、…魔法…少女…!え!?魔法少女なの?? アイリス うん! スズカ  チェンジで。 アイリス え? スズカ  チェンジで! アイリス 待って待って!何でよ。 スズカ  いや、だって魔法少女なんて呼んだ覚えないし。 アイリス え…、でも、だって、ホラ…。 スズカ  だって私、コレで召喚したんだよ。 アイリス ん?何コレ??魔導書?? スズカ  これの…、このページ。 アイリス どれどれ…、えーと…悪魔召喚の方法?え?悪魔?悪魔呼ぶつもりだったの? スズカ  うん、でもあなたは? アイリス 魔法少女です!(キメポーズ) スズカ  チェンジで! アイリス いや、ちょっと待って、何で? スズカ  何でって、あなた悪魔じゃないんでしょう? アイリス でも私呼ばれたよ?さっきも言ったけど、ホラ紋章と魔法陣、ホラ! スズカ  それは知らないけど…、なんかあれじゃないの?似た住所のところに間違って配達されたみたいな…。 アイリス 宅配便じゃねぇから。そもそも魔法陣は間違ってないんだって…(魔導書みて)あれ? スズカ  どうした? アイリス これ、魔方陣違ってるよ。 スズカ  え?どこ?? アイリス ここ、ほらこのカタチ、他にもココとコレ。違うでしょ? スズカ  えー?…あ、本当だ、何で?あ! アイリス 何? スズカ  そういえば召喚前に魔法陣の一部踏んだり、なんかバタバタしちゃったからそのせいで変わっちゃったのかも。 アイリス え?それじゃあなたのせいじゃん。 スズカ  てへっ。 アイリス てへっ、じゃないわ!ていうかそもそもあなた、何で悪魔呼ぼうとしてたの?? スズカ  それは…叶えてもらいたい願いがあるから。 アイリス 悪魔に? スズカ  悪魔に。 アイリス うーん、やめといたほうがいいんじゃないかなぁ…、アイツら何でも願い叶えるけど、その代わり魂よこせ、とか言ってくるじゃん。 スズカ  いや、知らないけど。 アイリス 言ってくんのよ、悪魔って。 スズカ  でも、それでも構わない。私の命をかけても復讐したい相手がいるの。 アイリス ああ…、うん…、あのさ…。 スズカ  何よ、復讐なんてよくない、とか綺麗事言うつもり?そんなのは…。 アイリス あ、いや復讐は別にいいのよ。そこじゃなくて、魂を奪われるっていうことについてなんだけど、魂を奪われるっていうのは命を失うってことじゃないよ。 スズカ  え? アイリス よく勘違いしてる人いるんだけどさ、命をかけるのと魂をかけるのって全然違うからね。 スズカ  え?そうなの?え?どう違うの?? アイリス んーとね、命をかけるってのはまぁ、そのままの意味で、願いが叶ったらただ死ぬだけなんだけど…。 スズカ  ただ死ぬだけってのもおかしな表現だけどね。 アイリス でもね、悪魔に魂を奪われるっていうのは、魂が尽きるまで悪魔の奴隷になるってことなの。 スズカ  奴隷?何それ怖いんだけど…。魂が尽きるまでっていうことは死ぬまでこき使われるってこと? アイリス そこが、違うんだなぁ。 スズカ  ?どういうこと?? アイリス 死んでも魂が尽きるわけじゃないのよ、魂って人間の寿命基準で大体十回くらいは転生できるの。 スズカ  え?それじゃ…。 アイリス そう、たとえ死んでも九百年くらいは悪魔の奴隷になり続けるってこと。 スズカ  思ってたのと全然違う。 アイリス だから、悪魔になんか願いを叶えてもらうもんじゃないの。 スズカ  そっか…。 ―少し落ち込むスズカ アイリス それじゃあさ…、代わりに私が叶えてあげようか? スズカ  え? アイリス あなたの願い。 スズカ  でも…。 アイリス もちろん、対価は必要だけど、悪魔のように魂をよこせとか言わないからさ。 スズカ  それじゃ、何が必要なの? アイリス そうだなぁ…、あ。それじゃ、私と友達になってよ。 スズカ  え?それでいいの? アイリス うん、いいのいいの。 スズカ  それでいいのなら…、うん。 アイリス 本当に?やったー。改めて私はアイリス、魔法少女やってます。よろしくね。 スズカ  うん。私はスズカ。普通のOLやってます。 アイリス スズカね。それじゃスズカ、あなたの願いは何? スズカ  私の願いは…。 アイリス あ、そうだ!先に言っとくけど、私、何でも願いを叶えられるタイプの魔法少女じゃないからね。 スズカ  え? アイリス まだまだ半人前だから使える魔法も限られてるし、あと、人に迷惑かけるタイプの願いも叶えられないから。 スズカ  えー、それじゃダメじゃん。 アイリス その代わり、3つの願いを叶えることが出来るよ。 スズカ  え?3つ? アイリス 3つ。 スズカ  何でも?? アイリス 出来る範囲でなら何でも。 スズカ  そういうのは何でもとは言わない。 アイリス だってさっき言った通り使える魔法限られてるんだもん。 スズカ  まぁ、それはしょうがないか…。 アイリス じゃあ何か願いを言ってみて? スズカ  それじゃ職場のお局様を消して。 アイリス 無理。 スズカ  早いわ!え?何でよ。 アイリス さっき言ったでしょ、人に迷惑かけるタイプの願いはダメだって。 スズカ  えー、それじゃダメじゃん。 アイリス だからその代り3つ!3つ叶えられるから、願い。 スズカ  でも一番叶えてほしい願いが叶わないんじゃなぁ…。 アイリス だったらホラ、そのお局様と結果的に関わらなくてよくなるような、そんなお願いとかあるかもしれないでしょ? スズカ  関わらなくてよくなるって…、あ、そうか!それじゃお金持ちになりたい! アイリス え?そんなのでいいの?? スズカ  うんお金持ちになって仕事辞めれば関わらなくて済むようになるし…。できる? アイリス お安い御用よ!マハリクマハリタ! スズカ  呪文古くない? ―SE「呪文」、「キラキラ」 ―時間停止(スズカのみ) ―アイリス、魔法で取り寄せたかの如くソデから宝くじを持ってきて、スズカに握らせる アイリス はい! スズカ  え?(宝くじに気付き)は!いつの間に!!…ん??何コレ? アイリス ドリームジャンボよ!(キメポーズ) スズカ  まだ売り出されてないけど??ていうか、え?私、お金持ちになりたいって言ったよね? アイリス うん。 スズカ  なってないじゃん。 アイリス 今はまだ、ね。でもその宝くじが当たれば…。 スズカ  え?あ!もしかしてコレ、当たるヤツ?? アイリス 当たれば金持ち! スズカ  何じゃそりゃあ! アイリス だってそんな、絶対当たるヤツ出すのなんて私の魔法じゃ無理だよぉ…、実力不足! スズカ  堂々と言うな!そんな回りくどい方法じゃなくて、手っ取り早くパパっとお金出すとかできないの? アイリス 盗むのはよくないよ? スズカ  盗めとは言ってない。なんか魔法でお金を生み出すとか、そういうのできないの? アイリス 無闇にお金をたくさん作っちゃうとハイパーインフレを引き起こして多くの人に迷惑かかっちゃうから…。 スズカ  現実的な理由で断られた。 アイリス それじゃふたつめの願いを…。 スズカ  ちょっと待って、ちょっと待って!! アイリス 何ですか? スズカ  ふたつめって…、ひとつめの願い、まだ叶ってないよね? アイリス 今はまだ、ね。でもその宝くじが当たれば…。 スズカ  だって絶対当たるヤツじゃないんでしょ? アイリス そんな、絶対当たるヤツ出すのなんて私の魔法じゃ無理だよぉ…。 スズカ  さっき聞いたよ。 アイリス 実力不足! スズカ  聞いたっつってんの! アイリス だからとりあえず、ひとつめについては保留ってことで。 スズカ  ええー…、大丈夫?私、騙されてないよね? アイリス 大丈夫大丈夫、もし当たらなかったら、何らかの形で保障するからさ。 スズカ  本当かなぁ…。 アイリス とにかくふたつめふたつめ。 スズカ  何かちょっと信じられなくなってきたから、ふたつめはすぐ結果が出るヤツにするか…。 アイリス ん?何か言った。 スズカ  ううん、何でもない。それじゃあさ、来週の少年ジャンプ出して。 アイリス …なんか願いしょぼくなってない? スズカ  そんなことないよ、なんか急激にワンピースの続きを読みたくなってさ…。 アイリス …本当に? スズカ  本当に!それで、できるの? アイリス お安い御用よ!ピピルマピピルマ! スズカ  さっきと呪文違くない? ―SE「呪文」、「キラキラ」 ―時間停止(スズカのみ) ―アイリス、魔法で取り寄せたかの如くソデから少年ジャンプを持ってきて、 ―スズカにお届けする。 アイリス はい! スズカ  あ!また…。こ、これは!? アイリス 中を確認してごらんなさい? スズカ  これは…、確かに来週の少年ジャンプ!え?どこで買ってきたの? アイリス だから魔法!魔法で取り寄せたの! スズカ  へー、あ!本当に願い叶うんだ…。 アイリス うん…、え?信じてなかったの? スズカ  信じてなかったっていうか、ひとつめが微妙だったからさ。 アイリス むぅー、仕方ないか…、でもまぁとりあえず、あとひとつ、最後の願いは? スズカ  うーん…、ちょっと待ってもらうことってできるかな? アイリス え?うん、それはまぁ、できるけど…、でもなんで? スズカ  本来叶えたかった願いが叶えられなくて、代案も結果が出るのに時間かかりそうだからさ、最後の願いはじっくり考えてから決めたいんだ。 アイリス そっかぁ、それじゃしょうがない…、でも、じっくりってどのくらい? スズカ  そうだねぇ…、明日には決まるかもしれないし、1年後かもしれないし…。 アイリス い、1年!?それはちょっと困るかも、住むところもないし、それに…。 スズカ  だったら一緒に住めばいいじゃん。 アイリス え? スズカ  困ったときはお互い様だよ。それに アイリス それに? スズカ  私たち、友達じゃない。 アイリス …。 スズカ  でしょ? アイリス うん!ありがと!それじゃよろしくね。 ―アイリス、はける スズカ  こうして、私とアイリスの二人の生活が始まった。 ―スズカ、くるりと回る ―別の日、とあるアパレル ―更衣室前にいるスズカ スズカ  大丈夫?キツくない?? アイリス うん、大丈夫。もうすぐ終わるから。 スズカ  ゆっくりでいいからね。 アイリス うん…、ええと…、ちょっと待ってね…。 スズカ  (意地悪な感じで)もーいーかい? アイリス え?ちょ、ちょっと…、まーだだよ。 スズカ  もーいーかい? アイリス わわ…、ま、まーだだよ スズカ  もーいーかい? アイリス …うん、もういいよ…、あ、いやちょ、ちょっと待って! スズカ  どうしたの? アイリス やっぱり似合ってないかも、やっぱりいつもの…。 スズカ  そんなことないって(更衣室のほうにはける) アイリス きゃっ、ちょっといきなり入ってこないでよ。 スズカ  ほらー、可愛いじゃん。大丈夫だって。 アイリス で、でも…。 スズカ  いいからいいから! ―スズカ、おしゃれ服に着替えたアイリスを引っ張り出す スズカ  ほら、完璧 アイリス 本当に?変じゃない?? スズカ  とーっても素敵だよ、それじゃ出かけるよー。 アイリス え?いきなり外はちょっと…。 スズカ  何恥ずかしがってんの?大丈夫、いつもの衣装に比べたら全然恥ずかしくないから。 アイリス う…うん…。今ひどいこと言わなかった?? スズカ  本当のことしか言ってないよ。 アイリス そっか…、うん? ―二人、くるりと回る ―別の日、スズカの部屋 スズカ  本当に大丈夫なの? アイリス うん、いつもスズカにお世話になりっぱなしだからね、今日は私が腕をふるっちゃうよ! スズカ  でも…。 アイリス それに、実は下ごしらえはもう済んでるんだ。だから、ね。 スズカ  そっか、…それじゃよろしくね。 アイリス うん、まかせて! ―アイリスはける スズカ  アイリスの手料理か…。アイリスって料理上手なのかな?よく知らないけど…。…ん? ―スズカ、異臭を感じる スズカ  え?何この匂い…、アイリス!アイリス!! ―アイリス出てくる アイリス もうちょっと待ってね。あ、そうだ、今日普通のカレーの予定だったんだけど、メニュー変更!グリーンカレーになりました! スズカ  グリーンカレー?…もしかして!! ―スズカはける スズカ  ぐぇー! ―スズカ再登場、悪臭の影響で少しふらついている スズカ  アイリス、あれ何?ていうかいつ作ったの?? アイリス ふふん、カレーは寝かせる程美味しくなるって聞いたからね、1週間前にコッソリ作っておいたのよ! スズカ  い、1週間?…その間、どこに?? アイリス ばれないようにベランダに。 スズカ  そりゃ…、生えるよ…。 ―スズカはける ―SE「人が倒れる音」 アイリス スズカ?スズカー! ―アイリスはける ―別の日 ―寝室、布団に入っている風のふたり アイリス スズカ、起きてる? スズカ  うん。 アイリス スズカと暮らし始めてどれくらいだっけ? スズカ  うーん、2か月くらいかな? アイリス 願い事、決まった? スズカ  ごめん、まだ。 アイリス そっか…。 スズカ  ねぇ、アイリス。 アイリス 何? スズカ  最後の願いが叶ったら、アイリスは帰っちゃうんだよね? アイリス うん、魔法の世界にね。 スズカ  …戻ってこれるの? アイリス え? スズカ  魔法の世界に帰った後、こっちの世界に戻ってくることはできるの? アイリス それは…。 スズカ  …やっぱり…お別れになっちゃうんだ…。 アイリス うん…、基本的に自分の意志で世界を渡ることはできないからね…、それに一度魔法陣で召喚されると、百年は再召喚できないから…。 スズカ  そっか…、あれ?帰るときも徒歩で帰る感じなの? アイリス ううん、帰りは強制帰還だから、瞬間移動的なやつだよ。 スズカ  そうなんだ。だったら来る時もそれにすればいいのに…。 アイリス そのほうが私たちも楽なんだけどね…。なんかね、人間の世界に長く暮らすと帰りたくなくなる魔法少女が出てくるらしいの。だから、いつの頃からか、召喚された魔法少女は願いを叶えたら強制的に戻されるようになったんだって。 スズカ  そうなんだ…、でも、その気持ち分かるな、だって私も…。 アイリス ん? スズカ  …何でもない。でも、そうだよね、魔法少女がみんな人間の世界で暮らすようになったら魔法の世界の人口、特に若者の人口が減っちゃうから、高齢化が進む、税金が上がる、住みづらくなってさらに若者が人間の世界に移住、高齢化が進む、税金が上がる…の負のスパイラル待ったなしだもんね。 アイリス いや、そういうわけではないんだけれど…。 スズカ  でも…、それでも私はアイリスとずっと一緒にいたいな…。 アイリス え? スズカ  私ね、アイリスが来るまでずっと下向いて生きてたんだ。職場には嫌味なお局様がいるし、楽しいこともなかったし、仲のいい友達もいなかったし…。 アイリス …。 スズカ  でもね、アイリスが来て、一緒に暮らすようになって、そりゃ大変なこともあるけれど、でもね、それ以上に楽しいなって思えるようになったんだ。自分の人生で、上を向けるようになった。全部、アイリスのおかげ。 アイリス そんなこと、ないよ。 スズカ  そうなの、私がそう感じてるんだからそうなの。…だから、ずっと一緒にいられたらいいなって。 アイリス …。 スズカ  …なんてね、アイリスにはアイリスの、魔法の世界の友だちや家族、夢だってあるもんね。私のワガママにいつまでも付き合わせるわけにはいかないよね。 アイリス …うん。 スズカ  早いこと、最後の願い決めないとね。それじゃ、おやすみ。 アイリス おやすみ…。…私も…私もずっと一緒にいたい…、だけど、多分、そろそろ…。 ―暗転 ―翌日 ―スズカの部屋 ―ランが座っている ―そこにスズカ、帰ってくる スズカ  ただいまー。 ラン   お帰り。 スズカ  アイリス聞いてよ、また会社のお局様に仕事押し付けられてさ、私だって忙しいのに、「これ急ぎだから」とか言って人にやらせてさ、そのせいで自分の仕事遅れちゃったのに、「何?まだ自分の仕事終わらないの?」とか言ってくんの。お前のせいだっつうの。その上自分のミスを、「あれ?これはスズカさんにお願いしたやつよね?」とかなすりつけようとしてくんのよ?ホントあの人さっさといなくなってくんないかな? ラン   それがあなたの願い? スズカ  まぁ、以前はね。でも、ダメなんでしょ?人に迷惑かけるようなのはさ。 ラン   ?そんなことないけど?? スズカ  え?だって最初にそう言って…。あれ?アイリス??…いない…誰も、いない。 ラン   いや、いるよ。(立ち上がって)私がここにいるよ? スズカ  声が…、声だけが…聞こえる…。 ラン   だからいるって!ここに! スズカ  すぐ近くに気配を感じるのに全然姿が見えない…。 ラン   いるってここに!ホラ!! ―ラン、必死に自分の姿をアピール スズカ  あ! ラン   (息が上がっている)…ほら…ちゃんと…いるでしょ…? スズカ  気のせいか。 ラン   気のせいじゃないわー!(体当たり) スズカ  うわっ!びっくりしたー、え?誰??いつの間に?? ラン   よくぞ聞いてくれました、私の名前は…。 ―コートを羽織ったアイリス帰ってくる。 アイリス ただいまー。 スズカ   あ!お帰りー、どこ行ってたの? ラン   あれ?あの…。 アイリス 駅。 スズカ  駅? アイリス うん。 ラン   ちょっと…。 スズカ  え?何で?? アイリス シウマイの像があるって聞いて…。 スズカ  あちゃー、見にいっちゃたんだ、アレ。 アイリス あれ何?何なのアレ。シウマイ感ゼロなんだけど、ただの四角い大谷石だったんだけど、全然シウマイじゃなかったんだけど! スズカ  ガッカリスポットだよね。 アイリス 近くにあった木彫りの松尾芭蕉も意味不明だし。 スズカ  まぁまぁまぁ、その辺にして、とりあえず落ち着いて…。 アイリス いちご市ってなんなのよ! スズカ  やめて本当に、いろんな人に怒られちゃうから。 アイリス もう手遅れなんじゃない? スズカ  だとしても、これ以上は…、ね? アイリス スズカが言うなら…。 スズカ  そうだ、もうひとつの駅のほうに、岡本太郎の作品があるんだよ、そっち見に行こうよ。 アイリス え?そんな著名な芸術家の作品があるのに、なぜ私はシウマイの像を選んでしまったのか…。 スズカ  まぁいいじゃない、ホラ、行くよ。 アイリス うん。 ―スズカ、アイリス、出かけようとする ラン   ちょっと待って!私を無視するな! アイリス うん? スズカ  え?…あ!ごめん忘れてた!! ラン   忘れるってどういうこと? スズカ  ごめんごめん、えーと…。 アイリス 誰?知り合い?? スズカ  うん、知り合いっていうか、えーと、…名前なんだっけ? ラン   まだ名乗ってない…。 スズカ  そうだったっけ? アイリス え?あなた誰なの? ラン   ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。私の名前はラン。ここに来たのは…。 スズカ  そっかー、ランちゃんかー。私はスズカ。 ラン   え?あ、はい。 アイリス 私はアイリス、よろしくね。 ラン   う、うん。 スズカ  それじゃ、行こっか。 アイリス そうだね。 ―スズカ、アイリス、出かけようとする ラン   いや待って!まだ私のターン終わってない! アイリス あなたのターン?? ラン   まだ私、名前しか伝えてないよ?他にも気になることあるでしょう? スズカ  他に? アイリス 気になること?? 二人   あるかなぁ…? ラン   え?ないの??うそでしょう?? アイリス あ!はいはいはーい! ラン   はい、アイリスさん。 アイリス ランちゃんはなんでそんなにちっちゃいの? ラン   ちっちゃいって言うな!ていうかあなたと、さほど身長変わらないからね! アイリス いやー、それほどでも…。 ラン   褒めてなどいない…、え?本当に気にならないの?知らない人がいきなり家にいたんだよ?? スズカ  知らない人なんかじゃないよ!そんな寂しいこと言わないで! ラン   …え? スズカ  私はスズカ、この子はアイリス、そしてあなたはランちゃん。私たちはもう知らない人なんかじゃない、私たちはもう…友達だよ。 ラン   は? アイリス ランちゃんはもうひとりぼっちなんかじゃないです。 ラン   いや、ひとりぼっちじゃないけど…。 スズカ  ひとりぼっちは寂しいもんな…。 ラン   だからひとりぼっちじゃないって! 二人   もう何も怖くない! ラン   やめろー!人を勝手にぼっち認定するな! 二人   ♪口笛吹いてー、空き地へ行ったー ラン   「みんななかよし」の主題歌を歌うな!40代以上にしか分からないだろ?その歌、そうじゃなくて、私はラン、世界の理(ことわり)に導かれてやってきたドラゴンの娘よ! アイリス え…? スズカ  ドラゴンの娘…ドラ娘? ラン   ドラ息子っぽく言わないでくれます? スズカ  あ、いや、どちらかというとウマ娘っぽく言ったつもりだったんだけど。 アイリス スズカ!離れて! スズカ  ?どうしたのアイリス? アイリス いいから早く! ―アイリス、スズカの手を引っ張りランから遠ざける ―アイリス、コートを脱ぐ(下に魔法少女の衣装) スズカ  ちょ、ちょっと何するのアイリス。 アイリス スズカ、ごめん。全部私のせいだ、私がちゃんと説明しなかったから、だからこんなことに…。 スズカ  え?本当になんなの?全然分からないんだけど…。 ラン   何も知らないんだねー。この世界にはね、対(つい)となる存在があるんだよ。 スズカ  対となる存在? ラン   うん、光と闇、勇者と魔王、天使と悪魔、そして…。 アイリス 魔女とドラゴン…。 スズカ  うん…、うん?え?そうなの?他のは分かるんだけど、魔女の対になる存在ってドラゴンなの? アイリス うん、世界の理としてはそうなるみたい…。 スズカ  そうなんだ…、で?それがどうしたの? ラン   対となる存在は世界のバランスを保つために一方が呼び出された場合、もう一方も呼び出されることになってるんだよ。まぁ少しの間だったら誤差の範囲として呼び出されることはないんだけれど、長居し続けるとね。 アイリス こうなることは分かっていたのに…。 スズカ  でも、大丈夫じゃないの?何か、特に害はなさそうだし…。 アイリス 今はまだちっちゃいから…。 ラン   ちっちゃいって言うな! アイリス ドラゴンは災厄の象徴、住み続ければやがて大きな禍をもたらすわ。 スズカ  大きな禍…。 ラン   そうだなぁ、この世界の規模だと…、軽く見積もっても、人類滅亡クラスかな? スズカ  え? ラン   まぁ、その大きな禍を回避する方法もあるにはあるんだけどね。 スズカ  え?あるの? ラン   あるよ、しかも二つも。ひとつめはあなたの願いを私が叶えてあげること。そうすれば、私は元の世界に戻ることになるから。 スズカ  何だ、それなら…。 アイリス スズカ!ダメ! スズカ  え?何で…? アイリス 願い事には対価が必要、それはドラゴンも同じ。そしてドラゴンが求める対価は…。 スズカ  対価は? ラン   地球まるごと一個分の命ってところかな? スズカ  え? ラン   私たちの力を使うなら、それくらいの対価は当然でしょ?なんてったってドラゴンの力なんだから。 スズカ  そんな…。 ラン   そしてもうひとつは、魔女の力。 スズカ  魔女の…力…? ラン   うん、さっき言ったように、魔女とドラゴンは対となる存在だから、バランスをとるためにお互いの力を抑えることができるんだけど…。 スズカ  だけど…? ラン   見たところあなたまだ魔法少女よね?私の力を抑えるにはちょっと、いや、かなり力不足よね。 スズカ  そんなこと…。 アイリス ううん、その子の言うとおり、私の力じゃドラゴンを抑えられない…、ごめんねスズカ、せめて私が一人前の魔女だったら…、いや、ちゃんと説明して、もっと早く願いを叶えさせていれば、こんなことにならなかったのに…。 スズカ  アイリス…。 アイリス あなたとの生活が楽しくて…、この時間がずっと続けばいいなと思って…、そのせいで…。 スズカ  (微笑んで)アイリスは悪くないよ。 アイリス スズカ…。 スズカ  もともと私が呼んだのが原因なんだから。それに私もおんなじ、ずっとこの生活が続けばいいと思ってた…。私が悪いの…、だから気にしないで。 アイリス …スズカ…。 スズカ  でも、そっかぁ…、世界、終わっちゃうのか…、だったら一度でいいからアイリスのいた魔法の世界に行ってみたかったなぁ…。 アイリス え? スズカ  ま、さすがにその願いは無理だよね、ごめんごめん。 アイリス それだ! スズカ  え?どうしたの急に! アイリス あったの、もう一つ、解決する方法が!ちょっと、作戦会議! スズカ  え?ちょ、ちょっと。 ―アイリス、スズカを連れて少し離れたところで話し合い ラン   何コソコソやってるの?何やっても時間の無駄だよ?それより、せめて最後に一つだけ、何か願いごと叶えちゃったほうがいいんじゃないかなぁー。 アイリス (振り向いて)そうね、最後にスズカの願いを叶えて、終わりにしよっか? スズカ  待って、ダメだよ、そんなことしたら今度はアイリスの…。 アイリス それは大丈夫!心配しないで。 スズカ  でも…。 アイリス あなたの世界を救うためにはこの方法しかないの…、私はこの世界…、スズカのいるこの世界が無くなってほしくないから…。 スズカ  ………うん、分かった。アイリス! アイリス 何? スズカ  あなたと一緒に暮らした2か月間のこと、私ずっと忘れないから。離れても、ずっと友達だからね! アイリス (笑顔で)うん。だってそれが、私があなたに求めた、対価だからね。 スズカ  そういえば…そうだった。 ―二人笑いあう ラン   あのー、もういいかな? アイリス そうね、別れが惜しくならないうちに…。スズカ! スズカ  アイリスお願い!魔法の世界に戻るまで、ランちゃんの手を離さないで! ラン   え? アイリス お安い御用よ!ピリカピリララ! ―SE「呪文」、「キラキラ」 ―アイリス、ランに近づき、しっかりと手を握る ラン   え?え?何コレ何コレ?何なの?何がしたいの?? アイリス 私は今、スズカの三つ目の願いを叶えた、これで私は魔法の世界に強制帰還となるわ。 ラン   それが何?自分だけ逃げるってこと? アイリス 強制帰還の際、身に着けているもの、そして私が手に触れているものは一緒に魔法の世界に移動することになるの。 ラン   手に触れているもの?もしかして…。 アイリス あなたも一緒に魔法の世界に来てもらうわよ。 ラン   そんなことをすれば今度は魔法の世界に禍を起こすことになるわよ。 アイリス そうかな?だって魔法の世界だよ?魔女、いっぱいいるよ??むしろ危ないのは…、ランちゃん」、あなたのほうじゃないのかなぁ…? ラン   え…? アイリス 魔法の世界、楽しみね。 ラン   ま、待って待って、ちょ、ちょっと、この手、放してよ! アイリス それはできないわ、スズカの最後の願いだもの。 ラン   ごめんなさい、ごめんなさい。ほ、本当に、本当にちょっと待って!! ―照明、ハデなヤツ ―SE、照明に合わせ時空を超える感じのやつ アイリス ばいばい、スズカ…。 ラン   は、はなしてー…。 ―暗転 (暗転中に) スズカ  さよなら、アイリス ―二年後、 ―スズカの家 ―引っ越し用の段ボールが積まれている ―そこに空の段ボールを持ったスズカがやって来る スズカ  さて、と。あと少しだ、頑張ろう! ―スズカ、片づけていると一冊のアルバムを見つける スズカ  ん?これって…(アルバムを持つと、宝くじが落ちる)あれ?何だこれ??宝くじ…、二年前の?あ!ていうことはこれって…。 ―スズカ、アルバムを開く スズカ  アイリス!懐かしいなぁ…、コレ、一緒に私服選んだ時の…、これは…ああ、カレーの時のやつか…、ほかにもいっぱい…、そっか、あれからもう二年か…、結局この宝くじは当たらなかったけど…、ん?あれ?ていうことは…、三つの願い叶ってないじゃん。ま、いいけどね、ははは…。 ―スズカ、アルバムを見つめる スズカ  会いたいなぁ…、そして、二年前のように…また、一緒に…。 ―スズカ、アルバムを抱え、宝くじをぎゅっと握りしめる ―SE「呪文」、「キラキラ」 アイリス (声)スズカ…スズカ…。 スズカ  …。 アイリス (声)スズカ…、スズカってば…。 スズカ  ?…ん?…誰…? アイリス (声)忘れたの?私だよ、私。 スズカ  この声、もしかして! アイリス (出てきて)私だってば! スズカ  アイリス!?本当にアイリスなの?? アイリス うん、来ちゃった。 ―スズカ、アイリスに抱きつく アイリス ちょ…スズカ、痛いよ…ちょっと、どうしたの? スズカ  本当にアイリスだ!…え…、でも何で?どうして??だって百年は再召喚されないし、自分の意志では世界を渡れないって言ってたのに…。 アイリス うん、そうなんだよね…私にもちょっと分からないんだけど…、あれ?スズカ、その手に持っているのって…。 スズカ  ん?ああ、二年前にもらった宝くじだよ。結局当たらなかったんだけど、捨てられなくて…。 アイリス スズカ、もしかしてこれ握ってお願いしなかった? スズカ  お願い?お願いっていうか…、ああ、お願いかな?ちょうどアルバム見てて、、懐かしくなっちゃって、アイリスとまた会いたい、一緒に暮らしたい、って強く願ったけど…。 アイリス それだ! スズカ  え? アイリス コレ渡したとき、「もし当たらなかったら、何らかの形で保障する」って私言ったでしょう? スズカ  え?そうだったっけ? アイリス うん。それでね、これ、外れた瞬間に、宝くじから願札(ねがいふだ)に変化したのよ。 スズカ  願札って…、ああ、三枚のお札みたいなやつ。 アイリス う、うん…多分それで合ってる、のかな?それでね、願札って人間界に置いておくと時間と共に魔法力がチャージされて、より大きなお願いを叶えることができるようになるの。 スズカ  このはずれくじにそんな秘密が!! アイリス 二年も放置してたから相当強力な力をもっていたはずだよ。 スズカ  そうなんだ…、あ!でもアイリスが来たってことは、またドラゴンが来ちゃうってこと? アイリス ああ、それは大丈夫。私、あの時ドラゴン連れて魔法の世界に帰ったでしょう?あれがちょっと問題になっちゃってさ、私の魔力剥奪されちゃったのよ。だから今の私は魔法少女じゃない、ただの少女アイリスです!(キメポーズ)なのでドラゴンが来ることもありません。 スズカ  何それ、ふふふ…。 アイリス それよりスズカ、こんなに散らかして何やってたの? ―M「合唱曲『群青』」(かなりボリューム小さめに) スズカ  ああ、散らかしてるんじゃないよ、引っ越しの準備。私、仕事変えたんだ。 アイリス え?あの嫌いなお局がいるあそこ辞めたの? スズカ  うん。…アイリスのおかげなんだ。 アイリス え?何で?? スズカ  アイリスのおかげで私、上を向くことができた。そしてアイリスが守ってくれたこの世界、私も好きになろうと思った、ずっと好きでいたいと思った、だからまずは自分自身を好きになるために、人生楽しみたいって考えるようになったの。そのための第一歩がこれってこと。 アイリス そっか…。 スズカ  アイリス。 アイリス 何? スズカ  おかえりなさい。 アイリス え? スズカ  おかえりなさい。 アイリス うん、ただいま。 スズカ  これからもずっと一緒だよ、ずっと友達だからね。 アイリス うん!これからもよろしくね。 スズカ  それじゃ、行くよ? ―スズカ、アイリスの手を握る アイリス え?行くって…どこに?? スズカ  またそんな恥ずかしい格好してるから、まずは着るもの、探さないとね。 アイリス 失礼な、恥ずかしくないよ…ってちょっと、ちょっとそんなに強く引っ張らないでー! ―BGMアップ ―二人、わいわい話しながら賑やかにはけて (幕)