『魔王が身構えるよりもはやく…』 作:伊佐場 武 【登場人物】 魔王: 勇者: 悪魔神官: ―魔王の間 ―暗い中、魔王にスポットがあたる 魔王  …ここ…は…?(自身の体を見返し)…そうか、遂に復活の時が来たというわけか、…そう、この世界を、混沌の闇に沈めるその時が…。これまで人間どもに、地の底に追いやられていた我が同胞達よ!(返事がない)…ん?…我が、同胞達よ!!…あれ?我が同胞―、同胞たちー?…どうしたー?みんなー?どこ行ったー?…あれ?どうなってる??…そういえば毎回復活の儀の時にいる悪魔神官もいないな、悪魔神官―、どこー?どこにいるのー? ―照明オン ―悪魔神官倒れている 魔王  わ!…え?どうしたの??…死ん…でるの??え?本当に?…うわ、本当に死んでる!うわー…、え?でも何で??…魔王の復活のための贄として我が命を捧げる的なことをやったの?いやいらないいらない、そういうシステムのアレじゃないから。ていうか復活させた本人に死なれると、こっちも今後どうしたらいいか分からなくて困るから。何か今回のルールとかシステムとかそういうのも分からないし…。 ―そこに勇者、やってくる 勇者  見つけたぞ!魔王! 魔王  ん?…誰?? 勇者  我こそは勇者!貴様の野望もここまでだ!いくぞ! 魔王  いや待って!待って!ちょっと待って! 勇者  問答無用!うおぉー! 魔王  いや待てって…(攻撃受ける)痛てっ、この、ちょっと待てよお前! 勇者  さすがは魔王だ、この程度の攻撃じゃカスリ傷ひとつ負わすことができないか…。 魔王  うるさい、黙れ、いいからそこに座れ。 勇者  バカなことを…、魔王の命令などに私が…。 魔王  うっさい!いいから座れッ!! 勇者  …あ、え?あ、はい…(座る)。 魔王  ったく、一回でやれよ。何度も言わすな…。まず最初に聞くけれど、(悪魔神官指して)コイツやったのアンタか? 勇者  そうだ、そしていよいよ魔王を…。 魔王  黙れ余計なことは言うな、今、事実確認してんだから。 勇者  あ、いや…はい。 魔王  ていうかさ、私、ね?さっき、ほんの数分前に復活したばっかりなんだよ。 勇者  はい。 魔王  何でお前もうココにいるんだよ。おかしいだろ?普通こういったもんは復活して、国のひとつも滅ぼして、ある程度の騒ぎになってから、アンタら派遣されてくるもんなんじゃないのか? 勇者  ええ、ま、今まではそういう感じでした。 魔王  今までって何だよ。 勇者  ええとですね…、魔王さんって今回で6回目ですよね? 魔王  何がだよ。 勇者  あの、この世界にやってきたの。 魔王  ん…?…えーと…あぁそうだ、6回目だ。良く知ってんな。 勇者  さすがにこう何回も出てくると、傾向と対策ができているというか…。 魔王  んなこと言ったってコッチまだ何もしてないじゃんか。今の状況だけ見たら、どっちかというとアンタのほうが悪だからな。 勇者  いやそんな…、え?そんなことないよね? 魔王  そう思うならみんなに聞いてみればいいじゃんか。(悪魔神官に重なるように倒れ)もうやられたテイで、この角度で写真とってさ、それアップしていいから、ツイッターにあげてみ? 勇者  あ、はい。(スマホ取り出し、写真撮る)え…と、文章はどんな感じで? 魔王  「魔王復活!即討伐!私TUEEE!」でいいんじゃない? 勇者  なるほど…、投稿っと。 ―通知音がたくさん鳴る 勇者  うわ、さっそくたくさん来た。ええと…、「さすがです」「もう倒したんですね、すごい」「魔王って復活してたんですね。」「秒殺魔王ワラ」…軒並み高評価ですね。 魔王  そりゃ最初はアンタの知り合いばっかりだからな。拡散されてもう少しすると冷静な意見とか出てくるから待ってな。 勇者  そうですかね…?ん?「復活したばっかりの魔王って、別に悪いことしてなくね?」「魔王ってだけで討伐するのは差別じゃないですか?」「何でもかんでも殺せば解決っていうのは考え方が古いんじゃないですか?」…何だコレ…。 魔王  もう風向きが変わったのか、恐るべし、SNS。そのうち人権派とか自然保護団体とか動物愛護団体とか、いろんなところが騒ぎ出して炎上しはじめるぞ。 勇者  え?ちょっと…、え?どうすればいいんですか??「通報した」ちょ、通報されちゃったんですけど!通知止まらないんですけど!! 魔王  人のうわさも七十五日、ま、時間が解決してくれるさ。 勇者  え?本当に?? 魔王  …多分。 勇者  多分じゃダメだから。ねぇちょっと! 魔王  仕方ないなぁ、じゃ、ちょっとそれ貸して(スマホかりて二人で自撮りモード)…ちゃんと楽しそうな表情して…、まだ硬い…、うん、ま、いいか、いくぞ!いぇーい!(撮影) 勇者  …何コレ…? 魔王  ちょちょちょいの、ちょい!はい、おっけー、返す。 勇者  (受け取り)ん?「説明不足でごめんなさい、今度やるお芝居のタイトルでした。みんな観に来てね。」ん?どういうこと?? 魔王  演劇の告知ってことにした。 勇者  え?そんなんで…、「なんだそうか、安心」「俺は最初から分かってたけどね」「不幸な魔王はいなかったんだ、よかった」 魔王  な?収束したろ? 勇者  ええ、まぁ…。でも…。 魔王  これが世間の意見だ。今、アンタが私のことを討伐すると、間違いなくアンタが悪者になる。…ていうかさ、早すぎなんだよ、ここに来るのが。 勇者  でも未然に事態を防げるならそれに越したことはないじゃないか! 魔王  それは正論!でもそれじゃ世間の共感は得られない。 勇者  なんで…。 魔王  結局さ、災いなんて自分の身に降りかかるまでは他人事なんだよ。前回復活してから今日までってどのくらい時間たってんの? 勇者  おおまかだけど…、八十年くらいかな? 魔王  そんな経ってんの?じゃあ今の子達、魔王の脅威なんて分かんないよ、実感してないんだから。 勇者  でもそれじゃ、私は一体なんのためにここまで頑張ってきたんだ? 魔王  だから、タイミングが早かっただけだって。もうちょっとしたらどこかしら国滅ぼすからさ、そしたらまた来ればいいじゃん! 勇者  そんな…、被害が出てからでは遅いんだ! 魔王  うん。私もそう思う。でもそれじゃ納得しない人たちがいる。だからさ、そういうの、もうちょっとちゃんと説明する必要があるんじゃないかな?ま、何したって文句言うやつはいるけどさ。 勇者  なぜだ?こっちは命がけで世界を救う戦いをしているんだぞ? 魔王  そんなこと私に言われても知らないけど…。でもさ、自分にできないことをやって注目を受けている人間を見ていると、一言物申したくなるやつってのは出てくるもんだよ。ま、妬みとか嫉みとかそんな感じのヤツさ。そういうやつがいっぱいいると、集団になって力を持ち始めるんだ、正しいとか正しくないとか関係なくな。 勇者  …。 魔王  …こう考えると私たち魔王軍より人間のほうがよっぽど怖いな。 勇者  …それでも…。 魔王  ん? 勇者  それでも私は、世界のためにお前を倒す!それがこの私の、勇者の使命だからな!いくぞー! 魔王  うわっ!また来た!いや待って! 勇者  同じ手を何度も食らうかぁ! 魔王  いや別に同じ手とかそんなんじゃ…(攻撃食らう)痛てっ…いいからちょっと待てよ!いい加減にしねーとマジのヤツで殴るかんな。 勇者  何だよ…。 魔王  あのさ、アンタがその、世間の風に逆らってでも自分の意志を貫くってのは、うん、分かったよ。 勇者  ああ、それが私の使命だからな! 魔王  うん使命使命、かっこいいね、うん。でもさ、今ここで私を倒したとして、その後どうすんの? 勇者  その後…? 魔王  うん。仕事するアテとかあんのかな?って思って。 勇者  仕事って…。 魔王  今日までさ、魔王討伐のために鍛えるばっかりで、勉強とか仕事に必要な資格とか、取ってこなかったんじゃないの? 勇者  それはそうだけど…、でも、世界を救うんだ!国から莫大な報奨金が支払われて、それで当面は…。 魔王  はぁ〜…、あのね?そんな報奨金、誰が払うの?? 勇者  え?そりゃ…、世界の国々の…。 魔王  えっとー、ね?そういった報奨金とかってのは、まずみんなが困って、でもみんな頑張ったけどどうしようもなくて、誰でもいいからこの事態を救ってくれー、金ならいくらでも出すー。みたいな流れが出来てから初めて設定されるんだよ。 勇者  あ、ああ…。 魔王  さっきも言ったけど、私、ちょっと前に復活したばっかり。今の時点で魔王によって困っているヤツ誰もいない。そうだろ? 勇者  ああ、そうだな。 魔王  誰が出すんだよ、報奨金! 勇者  えぇー…。 魔王  だから早すぎなんだって。もうちょっとしたら…、そうだな、宇宙ステーションの若田光一さんが戻ってきた頃ぐらいに世界滅ぼし始めるから、頃合見てまた来ればいいじゃん。 勇者  …しかし…、私は…。 魔王  ほら、そうすればさっきの文句言われ問題も解決だぞ。 勇者  そうは言っても…。 魔王  もうそうなったら、全世界の人たちから英雄って呼ばれるよ。モテ期も到来、もう一生ウハウハで遊んで暮らせるよ。 勇者  うるさいうるさい!そのような甘言に乗せられるものか!罪なき人々が苦しむ未来を見過ごすことなどできるハズがない! 魔王  そうか…、ここまで言ってもまだ帰らないのだというのなら仕方ない。相手になろうではないか。 勇者  (構えて)行くぞ、魔王! 魔王  (構えて)令和の桜と共に、散るがいい。 勇者  …。 魔王  …。 勇者  …あの、ちょっといい? 魔王  何だ? 勇者  さっきからちょいちょい気になってたんだけど、魔王ってついさっき復活したんだよね? 魔王  そうだが? 勇者  その割に、やけに最近の世相に明るくないか?ツイッターとか宇宙ステーションとか、令和とか…。 魔王  まあな。 勇者  いや何でだよ!復活したてだろうが! 魔王  復活待機中にラジコ聞いたり、アベマTV見てたりしてたからね。 勇者  え?そういうの受信できる環境なの?その、死後の世界…? 魔王  できるよ、Wi‐Fiだって飛んでるし、もう6Gだって完備されてるんだから。 勇者  こっちは5Gすらまだまだだっていうのに?? 魔王  スーパーマリオの映画が公開されることも知ってるよ。 勇者  それはどうでもいいわ!…話が逸れたな、行くぞ! 魔王  望むところだ! ー勇者と魔王、激突 ーその瞬間、暗転 ー照明がつく ー悪魔神官が変わらず倒れており、 ー少し離れたところに魔王、倒れている。 ー悪魔神官、ゆっくりと立ち上がり、辺りを見回し、魔王に気付く 神官  魔王様、魔王様。 魔王  う…ん…。 神官  魔王様、起きてください! 魔王  …ん?…ここは…どこだ…?…あ!悪魔神官、え?生きてたの? 神官  いいえ、死んでます。魔王様も死んでます。 魔王  え?あ!そうか、勇者に。 神官  はい、そうです。 魔王  そうかー、死んだかー。 神官  それにしても今回は早かったですね。復活後何時間ですか? 魔王  いや何時間どころか何分ってレベルだったよ。記録更新だな。 神官  私もギリギリでしたよ。復活の呪文の最後の一言を唱え終わった直後にやってきたんですもん。 魔王  絶対早すぎだよな、アイツ。 神官  ええ、本当に…。またしばらくはココでの生活ですね。ま、ネット環境整っているから快適っちゃ快適なんですけどね。 魔王  そうだな。だが、もう復活はないかもしれないな。 神官  え?どういうことですか? 魔王  今回の勇者、アイツは強い。どれほど言っても決して私の言葉につられることはなかった。 神官  なるほど、ということは…。 魔王  ああ、アイツには素質がある。王となるべく素質がな。 神官  ならば、魔王様のお役目はこれで終了、ということですか。 魔王  ああ、長いこと世話になったね。 神官  いえ、魔王様こそ、お疲れ様でした。 魔王  今後はここで見守ろうではないか…、私を超える強大な、 魔・神 新たな魔王の誕生を! ー魔王、悪魔神官、少し引いた位置で下界の様子をみる。 ー勇者、やってくる。最初は笑顔だが、徐々に苦悩しはじめる。 ー勇者、背を向けひざをつき、咆哮のような叫び声をあげ (幕)