トリニティ 作:伊佐場 武 CAST 麻美(アサミ):【専門学校生】 まひる(マヒル):【社会人】 悠子(ユウコ):【社会人】 ーシェアハウスの共有リビング ー上手側が共有の玄関 ー下手から中央にかけ、パネルで仕切り、個別の部屋の出入口とする。 ー舞台中央には大きめのテーブル ー悠子、イタツキで何かしている。 ーそこへまひるが帰ってくる。 まひる  たっだいまー! 悠子   おっかえりー。 まひる  今日もまひるちゃんは、いっとーしょー…、あれ?悠子さん??なんで居るんですか?リストラ?? 悠子   いきなり失礼ね!違うわよ、有給とったの。 まひる  あぁ、また婚活パーティーですか。 悠子   んーとね、まず、婚活パーティーじゃないし、「また」とか言ってるけれど、行ったことないからね。 まひる  えぇっ!?行ったことないんですかぁーっ!? 悠子   そこまで驚くことじゃないでしょう!?…昔はさ、確かに結婚に憧れた時期もあったけど、今はそうでもないかな? まひる  そんなこと言ってたら本当に行き遅れちゃいますよー。 悠子   その時はその時。それにさ、正直、今の生活が楽しくてさ…、結婚なんてどうでもよくなっちゃってるんだよね。 まひる  またそんなこと言って…。でも確かに楽しいですよね、私、ルームシェアって初めてなんで、最初は不安だったんですよ、怖い人とか変な人だったらやだなぁ、って。 悠子   そりゃ他人と暮らすんだから当然よ。 まひる  でも一緒に暮らし始めて分かったんです。怖くて変な人でも、楽しくていい人なら大丈夫なんだって。 悠子   でしょう。…ん?まひるちゃん? まひる  ?何ですか?? 悠子   怖くて変な人って誰のこと…? まひる  やだなぁ、もちろん悠子さんのことですよ。打ち解ければいい人だったし、ま、要するに慣れですよね、慣れ。 悠子   まひるちゃんっ!!(まひるに迫る) まひる  はははは、冗談ですよぉ…。(目をそらす) 悠子   ふーん、そっかぁ、じゃあ私の目をみてもう一度言ってごらん? まひる  えー!そんなことできるわけないじゃないですかぁ、ウソがばれちゃいますもん。 悠子   ん? まひる  あ!…あははは…、ごめんなさーいっ!(逃げる) 悠子   こらっ!待ちなさいっ!! ー追いかけっこをする二人 ーそこに帰ってくる麻美 麻美   …ただいま。 まひる  あ、お帰り。ほら悠子さん、麻美ちゃん帰ってきましたよ。 悠子   何がっ!(まひるに顔を向けさせられ)あ!麻美ちゃんお帰り。 麻美   あれ?悠子さんが居る。何で?リストラですか? 悠子   違うわよっ! 麻美   じゃ、いつもの婚活パーティーですか…。 悠子   行ったことないからねっ!何このデジャヴ!? 麻美   (まひるに)何の騒ぎですか? まひる  あぁ、ちょっとふざけてただけ。気にしないで。 麻美   そうですか。…あ、あの…。 悠子   なあに? 麻美   いえ、あの、まひるさん。 まひる  ん?何?? 麻美   あの…、えーと…。 まひる  どうしたの? 麻美   あ、あの…。 まひる  ? 麻美   や、やっぱり大丈夫です! まひる  え? ー走って自分の部屋に入ろうとする麻美 ーそこに立ちふさがる悠子 悠子   待ちなさーいっ! ー麻美、気付くが止まりきれず激突する。 麻美   あ!きゃっ! 悠子   ぐえっ! ーそれぞれ、ぶつかったところをさすりながらしゃがみこむ。 まひる  もぅ、何やってんですか?悠子さん。麻美ちゃんも。 悠子   いたた…、麻美ちゃんねぇ…。 麻美   …はい…。 悠子   ココでみんなで暮らすってなったとき、最初に決めたこと覚えてるでしょう? 麻美   …はい…。 悠子   言いたいコトはハッキリ言う。って。 まひる  ま、悠子さんが勝手に決めちゃったんですけどね。 悠子   しょうがないわよ、それがルームシェアで上手くやっていく方法なんだから…。麻美ちゃん、ひとつ言葉を飲み込むと、カベがひとつできちゃうの。そしてひとつ作ると続けてどんどんカベができちゃって…、で、ある時フッと思うの。「なんで自分だけ、がんばっているんだろう?」って。 麻美   …。 悠子   私はね。麻美ちゃんも、まひるちゃんも大好き。アナタたちと一緒に暮らすことができて本当によかったなぁって思ってる。だけどそういうのって『自分だけ』じゃダメなのよ、長く続けていくためには、みんなが同じじゃなきゃダメなの。 麻美   …はい…。 悠子   だから、まひるちゃんに何か不満があるならちゃんと言いなさい。 麻美   え? まひる  え? 悠子   そうねぇ…、好き嫌いなく何でも食べてほしいとか?確かにこの子、「メロンパン一個食べられないんですよぉ〜。」とか言ってロクにご飯食べないもんね。でもあれ絶対ダイエットのための口実よね。 まひる  ちょ!そんなこと言った事ないですよ! 麻美   あの、違います、そうじゃな…。 悠子   違うの!?じゃあ男に媚びたようなあの声が気に入らないとか?確かにちょっと地声とは思えないものね。 まひる  地声ですぅ!生まれたときからこの声ですぅ!! 麻美   あの、そうじゃなくて、私…。 悠子   これも違う?じゃあたまに下着でうろついてるところ?でもそれは私もやるからなぁ…。 まひる  ちょっともうやめて〜! 麻美   違います、聞いてください!…その、不満とかじゃないです…。ちょっと、聞きたいことがあって…。 まひる  私に? 悠子   私じゃなくてまひるちゃんに? 麻美   はい…。あの…、その…。 まひる  なぁに?何でも聞いてよ。 麻美   え…と、(小声で)…女子力を…。 まひる  ん? 悠子   そんな声じゃ聞こえないわよ、もっとハッキリ言いなさい。 麻美   はい、その…女子力高くなるには何したらいいんですか? まひる  え? 麻美   女子力が高くなるには…、何をしたら…。 悠子   ちょっと待って!さっきその質問、まひるちゃんに聞きたいって、私じゃなくてまひるちゃんに聞きたいって言ったわよね!! 麻美   え?あ、はい。 悠子  (涙声)何で私にも聞かないのよ〜!私だって女子じゃない〜。 麻美   あ!?…そ、それは…。 まひる  悠子さぁ〜ん。何言ってるんですかぁ〜、そんなのぉ〜、決まってるじゃないですかぁ〜。悠子さんは既に女子じゃないからですよっ!! 悠子   がびーん!! 麻美   い、いや、そういうワケでは…。 まひる  悠子さん?アナタ今年でおいくつ?? 悠子   (声裏返り)え!?に、にじゅう…。 まひる  (ドス効かせて)あぁん? 悠子   い、いや、さんじゅう…。 まひる  はい??? 悠子   ごめんなさい、43です…。 まひる  でしょう?そんな年齢のアナタが『女子』だなんて、おこがましいにも程がありますわ。 麻美   あ、あの、何もそこまで…。 まひる  それに悠子さん? 悠子   はい…。 まひる  アナタ先ほど、「結婚なんてどうでもいい」と仰いましたわよね。 悠子   あ、あれは…。 まひる  仰いましたわよねっ! 悠子   は、はいっ! まひる  女子は皆、結婚に憧れを抱くもの…、女子の最終到達点は結婚、かわいらしくも幸せな花嫁…(遠い目)。 麻美   あの…、まひるさん? まひる  そんな、目的すらをも見失ったアナタに女子を名乗る資格はないわっ!! 悠子   ずぎゃぁぁんっ!あ、あぁぁ…。(崩れ落ちる) 麻美   ど、どうしたんですか?悠子さん!? 悠子   確かに、私の中にはもう、女子力のカケラも残っていない…、アナタに指摘を受けてやっと気付くことができた…。 麻美   …悠子さん? 悠子   いや、そうじゃない。本当は気付いていた、でも気付かないフリをしていただけ…。だって自分は、自分だけは信じてあげたいじゃない。自分が女子なんだって…。 まひる  悠子さん…。 悠子   でも、もうやめるわ…、これ以上過去の栄光にしがみついていたら、輝かしかったアノ頃の自分まで傷つけてしまう…。 麻美   何です?過去の栄光って。 悠子   さようなら、女子だったアノ頃のワタシ、そしてこんにちは、これからの、ワタシ! まひる  …合格よっ!! 悠子   えっ…! 麻美   何が?何に?? まひる  今を見つめ、より自分を輝かせる新しい自分に挑む、それこそが真の女子たるもの…。見た目?年齢?そんなの関係ありません。今の生活に慣れ、先に進むことを拒否するココロ。そのココロこそが女子を女子でなくしてしまう悪魔なのです。 悠子   それじゃ、ワタシ…! まひる  ええ、あなたのココロからは悪魔が飛び立ちました…。おかえりなさい、悠子さん。いえ、真の女子となった、悠子『ちゃん』。 悠子   ………ただいま………。 ー悠子とまひる、涙を流して抱き合う ーあきれる麻美、荷物を持ち直して、 麻美   ご飯の準備ができたら呼んでください。(去ろうとする) 悠子   (引き止めて)ごめん、二人の世界に入ってた、ごめん! まひる  (引き止めて)ごめん、変なスイッチ入っちゃって、話聞くから!! 麻美   いや、真剣に聞いてくれないならいいです、それじゃ…。 まひる  (引き止めて)聞くから〜、真剣に聞くから〜! 悠子   (引き止めて)もうへんなちょっかい出さないから、ね?ね? まひる  (少し激しく)ホラ!この前読みたいって言ってたあのマンガ、貸してあげるから。 悠子   (もっと激しく)ワタシも大切に取っておいた金のエンゼルあげるから。 麻美   (振りほどいて)分かった!分かりましたからちょっとストップ!!一旦落ち着きましょう。…とりあえず荷物だけ置いてきちゃいますからその後で。あ!あと、金のエンゼルはいらないです。 悠子   え?いいの?金だよ? 麻美   金であろうとも、いらないものはいらないので。 悠子   ちぇっ。 まひる  そういえば私も帰ってきてまだ自分の部屋に行ってないや。じゃ、私も一度部屋に行ってからまたくるね。 麻美   はい。 まひる  それじゃ、また後で。 ー麻美とまひる、それぞれの部屋に行くようにハケる。 悠子   …さてと…、私は何してたんだっけ…??あ、そうだ! ー悠子、部屋とは別の方向にハケる。 ー多少の間 ーまひる、本を持って登場(部屋着に変わっていても良い) ー続いて麻美、登場(まひると同様) 麻美   あ、すいません。お待たせしました。 まひる  大丈夫、それよりコレ。はい。 麻美   え?本当に貸してくれるんですか? まひる  約束だからね。 麻美   ありがとうございます。 まひる  それで、相談の件だけど、女子力…。 悠子   (声だけ)ぎゃぁ〜!! 麻美   今の声!? まひる  悠子さん!? ー声のほうに移動する二人、 ーハケる直前、悠子が登場 悠子   ぎゃー、ぎゃー。 まひる  どうしたんですか?悠子さん!? 悠子   ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ、ぎゃぎゃ。(ごきぶりが、でた) まひる  すいません、何言ってるか全然わかんないです。 麻美   落ち着いてください。 悠子   ぎゃーぎゃーぎゃ、ぎゃぎゃぎゃぎゃ。 まひる  錯乱して言葉を忘れてしまっているみたいね。麻美ちゃん、悪いんだけど水持ってきてもらえるかな? 悠子   ぎゃぎゃ? 麻美   はい、分かりました。 悠子   ぎゃぎゃぎゃ、ぎゃぎゃぎゃぎゃ! まひる  落ち着いてください、悠子さん。 ―水がくるまでの間、悠子を抑えるまひる 麻美   …お待たせしました! まひる  ありがとう。悠子さん、とりあえず水のんで落ち着いてください。 ー水を飲む悠子、一息つく 悠子   …ふぅ、ありがとう、落ち着いたわ。 麻美   どうしたんです? まひる  一体何があったんですか? 悠子   …出たのよ…。 まひる  出た、って、何が? 悠子   黒くて、しゃしゃしゃーって動く…。 麻美   黒くて? まひる  しゃしゃしゃー? 二人   何だろう?? 悠子   分かるでしょう、このっくらいの、黒くて、しゃしゃしゃーって…。 まひる  黒ゴマ? 悠子   黒ゴマじゃねぇよ。黒ゴマでこのくらいだとしたらサイズでかいわ! 麻美   くりょとりゅひゅ(黒トリュフ)? 悠子   言えてないから!ていうか食べ物じゃないわよ、動いたって言ってるでしょう? 二人   動くもの? まひる  あ!たわし?? 悠子   たわしは動かねぇだろ!「動くもの」で、なんでまずたわしなんだよ! 麻美   でも亀の子なら…。 悠子   亀の子たわしでも動かねぇよ!たわしの時点で動かねぇから、種類の問題じゃないから。 二人   じゃぁもうギブで。 悠子   早いよ、全然核心に迫れてないから。 まひる  で、結局、何が出たんですか? 悠子   だから…、もう、ハッキリ言うと…出たのよ、ゴキブリが…。(最後小声で) まひる  え!? 麻美   え?何が出たんです?? 悠子   だから、ゴキブリ、ゴキブリが出たの! まひる  ええー!どうします??殺虫剤買って来ますか? 麻美   あ、ゴキブリってこれ? ー麻美、ポケットからゴキブリ取り出す。 悠子   え?ああ、それ…え!! まひる  い! ま・悠  ぎゃあーーーー!! 麻美   あ、大丈夫ですよ、ちゃんと死んでますから。 悠子   そういう問題じゃない! 麻美   チャバネですし。 まひる  そういう問題でもないー! 悠子   何?何で?何で持ってんの? 麻美   さっき台所に行ったら、なんか居たんで、退治してポケットに入れといたというわけです。 悠子   全然納得できる説明じゃない…。 悠子   え?何?麻美ちゃんてゴキブリとか平気なタイプなの? 麻美   いえ、それが苦手なんですよ。だから見つけるとつい殺しちゃうんですよね。 まひる  私たちとは苦手の性質が違うようです。 悠子   もう、いいから早く捨てて〜! 麻美   分かりました、次の燃えるゴミの日にちゃんと出します。 まひる  え?それまでは?? 麻美   そりゃ、まぁ、ココですかね? ー麻美、ポケットにしまおうとする。 ま・悠  いやいやいや。 悠子   さすがにそれはないでしょう。 麻美   え?じゃあ…。 ー麻美、床に無造作に放る。 ま・悠  ぎゃー!何やってんのー!! 麻美   あ、大丈夫ですよ、ちゃんと死んでますから。 ま・悠  知ってるよ! まひる  そうじゃなくて、そういうことじゃなくて! 悠子   何でそこに捨てるのよ! 麻美   だってポケットじゃダメって言うから…。 悠子   そこもダメだよ!もっとダメだよ!! 麻美   じゃあどうしたら…。 まひる  ティッシュで包んで袋で縛ってゴミ箱に捨てるとかすればいいじゃないぃぃ! 麻美   あ、そっか。 ー麻美、素手で拾おうとする。 ま・悠  素手で取んないでっ! 麻美   え?でも…。 まひる  そこにティッシュあるからっ! 麻美   あ、はい。 ―麻美、ティッシュでくるんで拾い、はける。 悠子   ちゃ、ちゃんと手も洗ってくるのよー! 麻美   (声だけ)分かってますよー。 ー麻美のその様子を遠くから見守る二人 ー戻ってくる麻美 麻美   捨ててきました。 悠子   どこに? 麻美   ゴミ箱に。 まひる  どうやって? 麻美   袋に入れて。 悠子   手は? 麻美   ちゃんと洗いましたよ。 まひる  何で? 麻美   薬用石鹸で。 ま・悠  …(うなずいて)よし! 麻美   いや、何の確認ですか!! 悠子   確認もするわよ、ゴキブリだもの。 まひる  でも麻美ちゃんって虫殺すの平気なんだね。 麻美   え?だってみなさんだって夏に蚊が出たら叩きつぶしますよね? 悠子   そりゃそうだけど、蚊って小さいからまだ、こう、何ていうか、しょうがない感じあるじゃない? まひる  そうですよね、ゴキブリはちょっとサイズが大きくて殺しにくいというか…。 麻美   そんなこと言っても、増えたら困るじゃないですか。 まひる  あ、そこが基準なんだ。 麻美   そうですよ、コッチが逃げて相手もいなくなるんだったら放置しますけど、コッチが逃げると相手の領土が広がるだけですからそうはさせまいと抵抗しなきゃいけないんです。進撃の巨人と同じシステムです。 悠子   う、うん…、そこは分かんないけど、…でも、ま、何にしろ、麻美ちゃんが心心強い味方であることは分かったわ。 まひる  そうですね、心強すぎて恐怖すら感じますけど…。 悠子   あ!そういえば、例の相談ってもう済んだの? 麻美   いや、まだこれからなんですよ…。 悠子   ええ!?何やってたのよ、まったく…。 まひる  いや、相談始めようとしたら、悠子さんが絶叫してこの部屋に駆け込んできたんじゃないですか。 悠子   え?あ、そうなの?? 麻美   はい。 悠子   あらやだ、ゴメンゴメン。それじゃ、続きをどうぞ。 まひる  どうぞって、悠子さんもここにいるつもりですか? 悠子   あら?お邪魔? まひる  そうですね。 麻美   はっきり言うと邪魔です。 悠子   ひ、ひどい!!そこまでハッキリと言わなくても…。 まひる  だって言いたいことはハッキリ言う、って言ったの悠子さんじゃないですかー。 悠子   う! 麻美   ルームシェアを上手くやっていく方法ですもんね。 悠子   はうぅ!…そうね、確かにそう言ったわ…、フフ、アナタたち、しばらく見ないうちに立派なルームシェアリストになったのね。 まひる  ほんのちょっと自分の部屋に戻っていただけじゃないですか。 麻美   ルームシェアリストって何です? 悠子   分かったわ、アナタたちの成長に免じて、その相談、私も聞いてあげる。 まひる  いや、ハナシ聞いてました?? 麻美   邪魔っていう話だったはずですけど…。 悠子   大丈夫、分かっているから、アナタたちの本当の気持ち。 まひる  何かめんどくさい感じになってきたわね。 麻美   しょうがないですね、じゃあ悠子さんもご一緒にどうぞ。 悠子   え?いいの? 麻美   だってどうせ出て行かないんですよね。 悠子   てへ。 まひる  かわいくないです悠子さん。 悠子   何か言った? まひる  聞こえてないなら別にいいです。 悠子   それで、相談って何よぅ。 麻美   えっと、女子力を高くするにはどうしたらいいのかな?ってことを聞きたかったんですが…。 まひる  女子力かぁ…、女子力っていっても色々あるからなぁ…。 悠子   女子力って、結局のところ「女の子っぽい感じ」のことでしょう?だったら大丈夫じゃない。麻美ちゃん充分若いんだから。 麻美   でも…。 まひる  そうね、麻美ちゃんの得意なことって何かな? 麻美   得意なこと、ですか? まひる  うん、とりあえず何でもいいから。 麻美   そう…ですね…、あ、オカルトとか得意ですよ。 まひる  う、うーん…。 悠子   いいじゃない、いいじゃない、オバケ屋敷とか肝試しに行って、男の人に「きゃっ!こわーい。」とかやれば女子力アップ間違いなしじゃない? まひる  いえ、悠子さん。オカルト得意っていうのはおそらくその真逆です。 悠子   え?そうなの?? 麻美   あ、オバケ屋敷とか肝試しが怖いって感じたことはないですね。どっちかというと腹が立つというか…。 ま・悠  腹が立つ?? 麻美   だってあんなの完全に死者への冒涜じゃないですか。あんな風にヒドイ姿で怖がらせて喜んでいるような人なんかいませんよ。今日だって、むしろ誰にも気付いてもらえなくて寂しい、っていうおじいさんが居たんですよ。みんな寂しがっているのに、幽霊は怖いっていうイメージが付いているせいで迂闊に姿を見せることもできなくて困っているんですよ。 まひる  …ん?いや…、それ何の話?? 麻美   だからオバケ屋敷とか肝試しの話ですよ。 悠子   そうじゃなくて、その後。 麻美   幽霊は怖いっていうイメージが付いている、ってトコですか? まひる  いや、あの、うん。そのあたりの全部…。 麻美   ああ、怖がらせようとしてないとか、迂闊に姿見せられなくて困ってるとかですか? 悠子   う…、うん。そう。 まひる  え…、麻美ちゃんって、もしかして…、見える人? 麻美   え?何がですか? まひる  だから…、幽霊が。 麻美   ええ、まあ。 ま・悠  えぇー! まひる  何それ何それー! 悠子   見えるの?本当に見えるの? 麻美   あれ?言ってませんでしたっけ? ま・悠  聞いてない! まひる  も、もしかしてこの部屋のどこかにも…。 麻美   ココですか?ココには…。 悠子   やめてー!言わないでー!! まひる  どうしたんですか?悠子さ…。 悠子   聞こえないー、聞―こーえーなーいー! 麻美   いや、悠子さ…。 悠子   いないもーん!オバケなんてウソだもーん!寝ぼけた人が見間違えただけだもーん!! まひる  ちょっと落ち着いてくだ…。 悠子   オバケなんてなーいさ、オバケなんてうーそさ! まひる  麻美ちゃん、ちょっと…。 ―まひる、麻美に何か耳打ちし、麻美、一度ハケる。 ―その間、悠子、ずっと歌い続けている。 ―やがて麻美戻ってくる。 麻美   悠子さん! ―麻美、悠子を無理やり振り向かせ、手の中のモノを見せる。 ―それは先ほどのゴキブリ 悠子   ぎゃあー!! まひる  大丈夫ですか?悠子さん。 悠子   大丈夫じゃないわよ! 麻美   あれ?まだダメですか?(近づく) 悠子   ぎゃー、大丈夫!大丈夫だからっ! まひる  毒を以って毒を制す作戦、成功ね! 麻美   はい。いえーい! ―麻美、ハイタッチしようとするが、まひるに避けられる。 麻美   あれ?何でです? まひる  うん、まずその手の中のものを、ね? 麻美   あ、ついうっかり。 ―麻美、再度ハケる。 まひる  大丈夫ですか、悠子さん。 悠子   ちょっと、本当にやめてよー。 まひる  だって悠子さん全然話聞いてくれなくなっちゃうんだもん。 ―麻美、手にコップをもって戻ってくる。 麻美   はい、悠子さん。 悠子   あ、ありがとう。 麻美   とりあえず水を飲んで落ち着いてください。 悠子   麻美ちゃんは気が利くね。 麻美   そんなことないですよ。 まひる  そうよね、そこが麻美ちゃんのいいところよね…。 悠子   どうしたの?まひるちゃん。 まひる  いや、女子力アップっていう話で相談受けてましたけど、別に麻美ちゃんは麻美ちゃんで、今のままでも充分いい子じゃないですか? 悠子   まあね。 まひる  だったら別に女子力とか考える必要なんかないんじゃないかなー?って。 悠子   ま、そりゃそうだけど、何か理由があるんでしょ。 まひる  麻美ちゃん、何かあったの? 麻美   い、いや、別に…。わ、私だって女性ですから、皆の話題に乗っかれるようになりたいな、とか、そんなことちょっと思っただけ、というか…。 悠子   麻美ちゃん。 麻美   はい。 悠子   理由を言いたくないならそれでも構わないわ、でもね、ウソはだめよ。 麻美   え?何で…。 悠子   麻美ちゃんがここに来てからもうすぐ丸二年よ。麻美ちゃんのウソが分からないわけないじゃない。 麻美   でも私、今までウソなんか…。 悠子   そう、分かってる。麻美ちゃんは今までウソなんかついてこなかった。でもね、だからこそ分かるの。今までウソなんかついたことの無かった麻美ちゃんが、今までとは明らかに違う話し方をしている。だとしたら今まさに麻美ちゃんはウソをついているのだと。 まひる  いや、そうなりますか? 悠子   そうなるの!少なくとも私の中では。麻美ちゃん、言いたいことはハッキリ言って、でも言いたくないことは言わなくてもいいんだから。だからウソだけはつかないで。 麻美   分かりました…、ごめんなさい…。 まひる  悠子さん! 悠子   あ!ごめんね、別に責めたワケじゃないのよ。ただ、ウソだけは…。 麻美   いいえ、相談を持ちかけておきながらちゃんと言わなかった自分が悪いんです。本当にごめんなさい。 悠子   …うん。 ―間 まひる  …ハイ!じゃ、この話はここで終わり、っと。麻美ちゃんごめんね、私もズケズケ聞いちゃって。…で、肝心の女子力アップの方法だけど…。 麻美   好きな人がいるんです。 まひる  …。 悠子   …。 ま・悠  …え!? 麻美   学校に好きな人がいて、で、みんなでその人の話題になったとき言われたんです。彼って、女子力高い系が好きっぽいよねって。 まひる  …うん。 麻美   で、私のような女子力のない人間は眼中にないだろうって…。 悠子   …麻美ちゃん…。 麻美   はい。 悠子   誰が言ったのそんなこと!名前と住所を教えて!今から簀巻きにして川に捨ててくるから!! まひる  ちょ、ちょっと悠子さん! 悠子   麻美ちゃんのこと何にも分かっていないくせに!誰よ!誰が言ったのよ! 麻美   いや、その、大丈夫です。 悠子   大丈夫じゃないわよ、麻美ちゃんが大丈夫でも私は全然大丈夫じゃないわよ! まひる  落ち着いてください、悠子さん。 悠子   だってひどいじゃない、そんな麻美ちゃんのこと全部否定するような言い方なんて。 麻美   ありがとうございます、悠子さん。でも、確かにその彼、そんな感じなんで、友達も別に悪気があって言ったんじゃないと思います。私の気持ちは知らなかっただろうし…。 まひる  それで私に相談に来た、と。 麻美   はい。 まひる  でもさ、彼本人から、その話は聞いたの? 麻美   え? まひる  好みのタイプ。 麻美   え!そんな、聞けるわけ無いじゃないですか、そんなこと…。 まひる  ていうことは、まだ確定じゃない、と。 麻美   でも、実際そんな感じですし…。 悠子   あのさ、麻美ちゃん。そんな感じって、そもそもどんな感じなのよ? 麻美   え…?そうですね、例えば、広瀬すずっていいよね、とか…。 まひる  ん?…うん。 麻美   新垣結衣に会ってみたい、とか…。 悠子   う、うん…。 麻美   女子アナだったらカトパンがいいなぁ、とか…。 まひる  …。 悠子   …。 麻美   そんなこと言ってたっていう話を友達が誰かから聞いたらしくて…。 ま・悠  …はぁ〜…。 麻美   え?ど、どうしたんですか? 悠子   あのねぇ、麻美ちゃん。それのどこが「そんな感じ」なの? 麻美   え?だってみんな女子力高そうな人ばっかりじゃないですか。 まひる  それはそうだけれども、男の人なんてみんなそんなこと言うものよ。 悠子   そんなこと言ってたって、付き合ったり、結婚する相手は全然違うタイプ、なんてことしょっちゅうなんだから。 麻美   そ、そうなんですか? 悠子   ええ。 まひる  それにさ、そのこと自体麻美ちゃんが直接聞いたんじゃないでしょう? 麻美   はい、でも…。 まひる  「でも」、じゃなくてさ、直接聞いたんじゃないんだったら、その話がどんな流れで出たかも分からないじゃない。 悠子   そうよね、「広瀬すずと土屋太鳳だったら、広瀬すずがいいなぁ」とか。 まひる  そうそう、「新垣結衣と剛力彩芽だったら、新垣結衣に会ってみたい」とか。 悠子   「フジテレビの女子アナだったらカトパンがいいなぁ」とか。 まひる  そういう限定された条件の中での好みだっただけかもしれないじゃない。 麻美   でも…。 悠子   だから、「でも」はナシ。麻美ちゃんは麻美ちゃんなんだから、麻美ちゃんらしさでぶつかっていったほうがいいと思うよ。 麻美   …私…らしさ…。 悠子   そ。無理していつもと違う自分演じて付き合ったところで、結局息苦しくなって別れることになっちゃうだけだもん。ルームシェアと一緒、…ていうかルームシェアよりも深刻よ、そんなことになったら。 まひる  そうですよね、会うたびに違う自分演じてたんじゃ、そのうちイヤになっちゃうかもしれませんよね。それに、まだ、そのままの麻美ちゃんがダメって決まったわけじゃないしね。 悠子   そうよ、今のままでも充分魅力あるんだから、もっと自信持ちなさいな。 麻美   …今のままの…私…。 まひる  そう、今のままの麻美ちゃん。 悠子   相手のために無理やり違う自分になる必要なんかないんだからさ。 麻美   …そう…ですよね。そうか、私、何焦ってたんだろう? まひる  ま、色恋沙汰だから、ちょっと周りが見えなくなっちゃうのは仕方ないけどね。 悠子   でもそうやって、人の意見に耳を貸して気付くことができるのも、麻美ちゃんのいいところよ。 まひる  まぁ、それがキッカケで今回の相談に至ってしまったのも事実ですが。 三人   ははは…。 ―笑い合う三人 麻美   あの、どうもありがとうございました。 悠子   気にしないでよ、一緒に住む仲間なんだからさ。 まひる  それにしても意外だったなぁ、悠子さんが恋愛に関して、あんなマトモなアドバイスできるなんて。 悠子   昔、結婚してたときに同じような失敗した経験、あったからね。 まひる  なるほどー。 ―間 麻美   え? まひる  え? 麻・ま  えぇー!! 悠子   ちょ、何よ二人していきなり大きな声出して。 麻美   ゆ、悠子さんって、結婚してたんですか!? 悠子   もう別れてるけどね。 まひる  てゆうか聞いてない! 悠子   まぁ、言ってないからね。 麻美   え?何で…。 悠子   だって言う必要ないでしょ?過去の話だもん。二人の過去の恋愛経験についてだって私知らないわよ。 まひる  いや、それはそうですけど…、でも結婚は…。 悠子   一緒よ、もう別れてるんだから。別れている以上、恋愛だろうが結婚だろうが、同じ過去の思い出でしかありません。 麻美   なんかすごい理屈…。 悠子   ま、本音を言えば、このことに関して、あんまり気を使ってほしくなかった、ってのはあったのかもね。 まひる  気を使う…。 悠子   私がバツイチだ、なんて知ってたら、二人とも私に恋愛関係の話をきかせてくれなくなりそうじゃない?それに今日のような相談だって隠れてコッソリ二人だけでやったりさ。 まひる  いや、今日の相談は普通に悠子さん、外される予定でしたけどね。 麻美   あ、でも、確かに、ココじゃなくて外の店で相談を聞いてもらってたかも。 悠子   でしょう?そしたら私の貴重な体験からなる的確なアドバイスもいただけなかったかもしれないじゃない。 まひる  ものは言いようですね、ただ単に話題に混ざりたいだけの寂しがりやさんだったクセに。 悠子   何か言った? まひる  聞こえてないなら別にいいです。 悠子   何よぅ、いいアドバイスだったでしょう? 麻美   はい、おかげでちょっと楽になりました。 悠子   ほらぁ! まひる  それにしても悠子さん、何で別れちゃったんです? 麻美   え?それ聞くんですか? まひる  だって気にならない? 麻美   そりゃ、まぁ気になりますけど…。 悠子   別にいいわよ、隠すつもりもないし。直接の原因は相手の浮気。 麻美   浮気…ですか…。 まひる  うわ、ちょっとヘビーなネタだったかもしんない…。 悠子   原因…っていうか…キッカケかもしんない、別れられた。 まひる  え?別れられたキッカケって…。 麻美   相手のこと、好きじゃなかったんですか? 悠子   まさか!むしろ大好きで、憧れの存在だった。それこそお付き合いできるなら自分を変えてもいいって思えるほどのね。 麻美   え!? まひる  それって…。 悠子   そ。さっきまでの麻美ちゃんと同じ。そして突っ走って失敗しちゃったパターン。相手の理想に合わせてどんどん自分を変えていって、結婚して、相手の言うままに仕事をやめて専業主婦になって…。 麻美   幸せ、だったんですか…? 悠子   その時はね。一緒になれた気持ちのほうが強かったから。でも、ある日彼に長期の出張が入って、突然ひとりの時間がたくさんできて、誰とも話す機会なんかなくて、ずっと考えてたら、ふと、気付いちゃったの。「私って何だろう?」って。 まひる  誰とも話す機会がない、って…。 悠子   古い人間関係とかさ、清算させられちゃったのよ、「いい妻でいるための条件」とか言われてさ。ま、露骨な不倫防止策よね、信じられてなかったんだと思う。 麻美   そんな、そこまでやってるのに? 悠子   ね?でもね、不倫を疑う人の心理って、どこまでやったか、どれだけやったかじゃないんだって。何かひとつでも疑惑があれば、それはもう不倫の疑いがあるってことなんだって。 まひる  そんな…。それじゃ相手の言いなりになるしかないってことじゃないですか? 悠子   それが相手に合わせ続けてきたことの代償なのよ。最後の頃なんかひどかったわよ。どこへ出張なんですか?と聞くと「俺を疑っているのか!」、ちょっと買い物に出かけようとすると「男に会うつもりだろ!」ってね。 まひる  うひゃー。 悠子   それでも何も文句言えなかった。一緒にいられるだけで幸せ、っていう考えがまだアタマのどこかに残っていたのかもね。だから自分さえ我慢すれば上手くいくんだ、って思ってずっと我慢してたの。 麻美   それで、どうやって気付いたんですか?相手の不倫。 悠子   ふふふ、女の勘よ! まひる  おおー! 麻美   かっこいいー! 悠子   なんてね、実際はコレ。 ―悠子、スマホを取り出し皆に掲げる 麻美   ?スマホですか? まひる  あ!LINEの記録とか? 悠子   違う違う、あの頃はまだスマホもLINEもなかったから。ある日ね、私の携帯に一本の電話がかかってきたのよ。 まひる  あ!「旦那さん、浮気してますよ」っていうタレコミですか? 悠子   うーん、違うんだなぁ…。 麻美   もしかして、浮気相手の旦那さんとか? 悠子   W不倫か…、だったらもっと修羅場だったかもね。それも違う。 まひる  え?じゃあ誰が? 悠子   浮気相手本人よ。 麻・ま  え? 悠子   かかってきていきなり「あなたに彼はふさわしくない、今すぐ別れて!」ってすごい剣幕でさ。 まひる  ええー、そういうのって本当にあるんだ? 麻美   で、悠子さんはどうしたんです? 悠子   いや、もう最初は何がなんだか分からないからさ、「電話番号間違ってませんか?」とか「それって本当に私ですか?」とか「相手は今出張中なんで折り返しお電話差し上げますね」とか色々言ってたんだけど、どうやらやっぱり浮気の相手で、用件は私にあったらしくて…。 まひる  まあそうでしょうね。 悠子   それで色々話す中、相手も落ち着いてきて、「分かりました、別れますのでもう少しお時間をください」ってなって切ったのよ。 麻美   あ、浮気相手が別れる、と。 悠子   ん?いや違うよ、私が別れるって。 まひる  ええ! 麻美   何で? 悠子   あれ?今のこれって私が別れた時の話してたんだよね? まひる  いや、まぁそれはそうですけども。 麻美   まさかこのタイミングだとは思わなくって…。 悠子   何かさ、ピーンと張り詰めていたものが切れた感じがしたのよ、この電話で。相手と離れることになる寂しさなんてのはもう無くってさ、ただただ解放されることに安堵していた自分しかいなかった…。 麻美   そうだったんですか…。 悠子   で、そっからはもう、あの手この手を使って8ケタを超える慰謝料をいただいて円満離婚に至ったのです。 まひる  いや、それ円満離婚ですか? 悠子   うん。証拠突きつけるたびに顔が青ざめていったけど、最終的にこちらから掲示した条件を満額で受け入れてくれたみたいだから円満離婚でしょ? まひる  八方ふさがれて手も足も出なくなっただけにしか思えませんが…。 麻美   え?でもそれじゃ、悠子さんて何でルームシェアなんかやってるんですか? 悠子   ひどい言いようね、ルームシェア「なんか」、って。 麻美   いや、あのすみません。でもどうして…。 悠子   ふふ、冗談よ。そうね、やっぱり寂しいからかな?あんなことあったからもう結婚するつもりはないけれど、家にひとりで居ると辛くなるときもあるからさ。だから正直、二人にはいつも助けられています。本当にありがとう。 麻美   え?あ、いや…。 まひる  いや、あの、どうも…。 悠子   何よ二人ともそのリアクション。 麻美   いや、なんていうか…。 まひる  そんな、いきなり感謝の言葉とか言われても…。 悠子   いいの、「言いたいことはハッキリ言う」それが一緒に暮らしていく上で大切なことなんだから。ふふふ…。 三人   ははは…。 ―笑い合う三人 悠子   さて、辛気臭い話はコレくらいにして。ちょっと待ってて。 まひる  ん? 麻美   何が始まるんですか? ―悠子、一度キッチン方面にはけ、ホールケーキを持って再び登場 悠子   じゃーん!! まひる  わぁ!すごーい!! 麻美   え?どうしたんです?今日は誰かの誕生日ですか? 悠子   ふふふ、何を言っているの?今日は、麻美ちゃんの誕生日じゃなーい!! 麻美   え!? まひる  あれ?そうだったっけ、おめでとー! 麻美   あ、いや…。 悠子   この誕生日会のために、わざわざ有給取って、みんなのこと待ってたんだから。 まひる  あー、それで…。 麻美   あ、あの! 悠子   ん?どうしたの? 麻美   私、今日誕生日じゃありません。 ま・悠  え? 麻美   いや、あの、私、誕生日4月なんで、今日じゃないです。 まひる  …。 悠子   …。 麻美   なんか、ごめんなさい。誕生日が今日じゃなくて…。 まひる  いやいやいや、麻美ちゃんが謝るトコじゃないから。もう、何やってんですか悠子さん。 悠子   あれー?おかしいなー。まひるちゃんの誕生日だっけ? まひる  私は1月ですよ。しっかりしてください。もう、自分の誕生日だったんじゃないんですか? 悠子   あれ?そうだっけ?いや、そんなことないない。あれー?何かの記念日だった気がしたんだけどなー。 まひる  まぁいいじゃないですか、とにかく食べましょ。麻美ちゃん食器とか飲み物持ってくるの手伝って。 麻美   はい。 ―二人、キッチン方面にはける。 ―悠子、一人、なんとか思い出そうと首をかしげながらも手伝いに参加する。 ―わいわいやりながら準備が終わり、グラスに飲み物をそそいで乾杯の準備。 まひる  それじゃ皆様、このなんだかよくわかんない記念日を祝してかんぱー…。 麻美   あー!そうだ!! まひる  ちょ、ちょっと麻美ちゃん? 悠子   どうしたのよ、いきなり。 麻美   ちょっとだけ!ちょっとだけ待っててください。 ―麻美はけ、手帳を持ってすぐに戻ってくる。 麻美   これですこれです。 悠子   ?手帳?? まひる  これがどうしたの? 麻美   ええと、ですね…、たしか…。…あ!あった。これです。 ―麻美、手帳を開き目の前に広げる。 ―それを覗き込む二人 まひる  うわー、なつかしー。 悠子   あらホント、麻美ちゃん、そういえば昔は髪短かったのよねー。 麻美   はい。 まひる  で、このプリクラがどうしたの? 麻美   これって、私がココにきた最初の日に撮ったプリクラなんですよ。 悠子   あれ?そうだっけ? 麻美   はい、まだ荷解きの終わっていない私を無理やり連れ出して3人で撮ったんです。おかげでお二人はばっちりフルメイクなのに、私ひとりノーメイク、完全にイジメだと思いました。 まひる  いや、あの日はうれしさのあまりつい…。 麻美   ふふ、分かってますよ。で、肝心なのはこれの撮影日。 ま・悠  撮影日? ―麻美の指差す辺りを見つめるふたり ま・悠  あー! まひる  これって…。 悠子   今日じゃん! 麻美   はい。 悠子   あ、だから麻美ちゃんの誕生日と勘違いしたのかー。 まひる  麻美ちゃんの誕生日じゃなくて、麻美ちゃんがここに入居した日ね。 麻美   はい、だから、三人の記念日ということで。 悠子   三人?なんで?? 麻美   だって、三人で生活を始めた日だから。 まひる  そっか、普通の集合住宅と違って、私たちはルームシェアだからね。 悠子   それじゃ、今日は「家族記念日」ってことにしない? 麻・ま  家族記念日? 悠子   もうさ、私たちって家族みたいなものじゃん。 まひる  いや…、それはちょっと…。 麻美   怖いです…悠子さん…。 悠子   えぇ!?…ダメ? まひる  …。 麻美   …。 まひる  …ぷっ。 麻美   ははは…。 悠子   え?何よぅ。 麻美   もう、分かりました、それでいいです。そんな目で見ないでください。 まひる  かわいくないですよ悠子さん。 悠子   何か言った? まひる  聞こえてないなら別にいいです。 麻美   それじゃ、改めて、乾杯しましょうか? まひる  はーい! 悠子   わわっ、待って待って。…それじゃ、家族の記念日を祝して、かんぱーい! 麻・ま  かんぱーい! ―三人、グラスを掲げ、飲む 麻・ま  これからもよろしくね、お母さん。 悠子   はい、どーも。…って何で私がお母さんなのよ。 麻美   え?だって家族にお母さんは必要じゃないですか? まひる  年長者だしー。 悠子   じゃあアナタたちは何なのよ。 まひる  そりゃあ見ての通りの美人姉妹ですわ。 悠子   (客席に)聞きました皆さん、自分で美人て。アレもうすぐ三十ですからね。 まひる  ちょっと!誰に言ってるんですか! 悠子   そんなことより私も姉妹がいい。スケバン刑事だって風間三姉妹なんだから私たちだって三姉妹でいいじゃないー。 まひる  いや、三姉妹にしたいところの基準が分かりません。 麻美   スケバン刑事ってなんですか? 悠子   うわ!ジェネレーションギャップ!? まひる  やっぱ三姉妹はムリじゃないですかね? 悠子   うっ!まだいけるもん、ギリギリ三姉妹でいけるもん。 まひる  いや、何の自信ですか?それ。 麻美   分かりました、じゃ、三姉妹でいいです。 悠子   やったー! まひる  えー!それじゃ美人姉妹じゃなくなっちゃうよー。 悠子   何か言った? まひる  聞こえてないなら別にいいです。 麻美   まぁまぁ、それよりも久しぶりに行きませんか? 悠子   行くって、どこへ? 麻美   (手帳を指し)コレですよ、コレ。 まひる  ああ、プリクラね。 麻美   家族記念日なんだから、家族写真撮らなきゃね。 悠子   ま、プリクラだけどね。 まひる  じゃ、ちょっとメイクを…。 麻美   大丈夫ですよ、ホラ、行きましょ!(まひるの手を引いて) まひる  え?ちょ、ちょっと麻美ちゃん?メイク直したいんだけど〜。 麻美   ダメです。あの時の復讐です。(二人はける) まひる  (声のみ)いや〜! 悠子   ふふふ…、二人とも、ありがとう。 麻美   (声のみ)悠子さんもはやく〜。 まひる  (声のみ)早く来ないと、集合写真の日に休んだ人みたいな写真にしちゃいますからね〜。 悠子   え!ちょ、ちょっと待って〜!ていうかプリクラでそんなのできるの〜? ―悠子、走りながらはける ―中央のテーブルにスポットを残して (幕)