『魔法のツボ』 作:伊佐場武 男 魔人 ―曲と共に幕開き ―ツボとにらみ合うように座っている男 ―男は掃除中のような格好、ツボの横にはツボの入っていた箱が置いてある。 ー幕が開ききり、曲F.O. 男   押入れを片付けていたら、とんでもないものが出てきた。…(ツボを手に取り)このフォルム・・・、この紋様・・・、間違いない、これは魔法のツボだ!…だとすれば、ここからなんでも願いをかなえてくれる魔人が出てくるはずだ。…(ツボを持ち体勢を決め)よし、いくぞ。…(ツボをこすり)いでよ、魔人!!パンプルピンプルペムポップン!! ー何もおこらない 男   ・・・。 ー男、ツボの中を覗いたり、叩いたり、逆さにしてみたりする。 ーでも、何もおこらない 男   ・・・ま、そりゃそうか。ふざけてないでさっさと終わらせるか。…それにしてもあんなヘンテコなツボ、持ってたっけ…? ーツボを置いて片付けに戻る男。その前を魔人が走りながら横切る ―魔人の様子をうかがう男。 ー水を流す音が聞こえ、再登場し、再びはける直前で男が呼び止める 男   ちょ、ちょっとちょっとちょっとー! 魔人  ん?・・・・・・・・・誰?? 男   お前こそ誰だよ、突然人の家に上がりこんで、トイレ使って・・・。 魔人  え?何何??見えちゃってる系?私のこと見えちゃってる系?都市伝説とか信じちゃってる系?おまじないとかやっちゃう系? 男   いや、もう、ちょっと、近いよ!近いし暑苦しいわ! 魔人  そりゃあそうですとも、何しろ私は、魔人ですからね。 男   …うん?魔人?? 魔人  はい、魔人です。 男   あ…、あぁ…。…あの、ちょっといい? 魔人  何でしょう? 男   魔人であることと、暑苦しいことがつながんないんだけど。 魔人  そうでしょうか?そういうもんですかねぇ…、じゃ、そういうことで。 男   いやまぁ、別にどうでもいいけど…。 魔人  ところで。 男   何だよ。 魔人  私は何でここにいるんですか? 男   知らねぇよ!お前が勝手に出てきて、人の家のトイレ勝手に使って帰ろうとしてたんだろうがよ! 魔人  いや、そうなんですが…。おかしいですね、呼び出された以上、ご主人様がいるはずなんですが…。 男   呼び出された? 魔人  はい。私達魔人は、魔法のアイテムを使って特定の呪文を唱えることで呼び出されるシステムなんですよ。私がここにいるということは、ご主人様もこのあたりにいるはずなんですけどね。 男   へー、そうなんだ。ま、この辺り住宅地だしさ、ご近所さんとかにも聞いてみれば? 魔人  あ、そうなんですか?なるほど…、そうですね、それじゃお邪魔しました。 ー魔人、出て行く 男   さてと、オレは…。 ー男、振り返り、片付け中だったことを思い出す。 男   そうだった…。押入れの中、まだまだ残ってるよな…。他の荷物は…。 ―男、ツボはそのままにして押入れに入り、他の荷物を片付けている。 ―魔人、戻ってくる。 ―男も一旦押入れから出てくる。 魔人  あのー…。 男   うわっ!何だよ、何戻ってきてんの? 魔人  いや、あの、ご近所さんに聞いて回ってみたんですが、みなさん知らないっていうんで…。 男   聞いて回ったって、まだものの五分も経ってねぇじゃねぇか。もっと色々なところ行って聞いて回れよ。 魔人  いやいや、ちゃんと聞いて回りましたって。分身の術とか使って。 男   分身の術?え?そんなのできんの? 魔人  はい、一応魔人なんで…。 男   へー。ていうか何でここに戻ってきたんだよ。 魔人  どうしたらいいか分かんなくなったんで、一度スタート地点に戻ったほうがいいのかな?と思いまして。 男   何だよスタート地点て。勝手にスタート地点に登録すんなよ。分かんなくなったんだったらもう家帰りゃいいじゃねぇか! 魔人  いや、それ、できないんですよ。 男   何で? 魔人  呼び出されたんで。 男   うん。 魔人  はい。 男   いや、はいじゃねぇよ! 魔人  はい? 男   呼び出されたんだか何だか知らねぇけど、相手が見つからないんだからもう帰るしかねぇじゃねぇかよ! 魔人  それがね、できないんですよ。 男   何で? 魔人  呼び出されたんで。 男   うん。 魔人  はい。 男   いやだから、はい、じゃねぇって言ってんだよ。さっきもやったわこのクダリ。一瞬あれ?ってなったわ! 魔人  何なんですか?何が言いたいんです?? 男   だから呼び出されたら何で帰れねぇんだよ! 魔人  え?そりゃだって、ご主人様の願いを叶えないと帰れないですもん。そういうルールですもん。 男   そういうことね、ご主人の願いを叶えないと帰れないってことなのね?そういう設定なのね? 魔人  はい、あの、設定というかルール。ルールですので。 男   どっちでもいいわ!つーかさ、ご主人なんてすぐ分かるもんなんじゃないのか?こういうのって大抵ご主人の元に呼び出されるもんだろうが。 魔人  そうなんですけど、今日はちょっと現場が遠かったんで、ご主人様の元にたどり着く前に魔法のアイテムを手放されてしまったみたいなんですよ。それで現場が分からなくなってしまいまして。 男   現場が遠いって、え?お前って何かしらの魔人なんだろ?だったら普段はその魔法のアイテムとやらの中に入ってんじゃないの? 魔人  あ、いや私はそういうタイプの魔人じゃないんですよ。 男   タイプ?何だよタイプって…。 魔人  ええとですね、大抵の魔人はおっしゃる通り、普段は魔法のアイテムの中に入っていて、呼び出されたらその中から出てくるんですが…。 男   何?お前は違うの? 魔人  閉所恐怖症なんで。 男   閉所恐怖症??魔人なのに??致命的じゃねぇかよ! 魔人  はい。ですので私、魔法のアイテムの中には入らないタイプの魔人にさせてもらったんです。 男   え?そういうのって選べんの? 魔人  まぁ私みたいに特別な事情がない限りは普通、選ばないですけどね。 男   で、それがアダになってご主人が見つけられなくなったと。 魔人  はい。 男   名字が平田だったばっかりにあだ名がジャアナヒラタゴミムシになるみたいな? 魔人  いや、それとは違います。ゴミムシとかやめてください。 男   親にキラキラネームをつけられたせいで就職に不利になったみたいに? 魔人  いや、それについてはコメントを差し控えさせていただきますけど。 男   別にいいじゃねぇかよ。あれ?でもさ、そうするとアンタは普段どこにいるんだよ。 魔人  まぁ、街中をぶらぶらと…。 男   その格好で? 魔人  ええ。 男   目立つだろ! 魔人  ああ、それは大丈夫です。呼び出される前、私の姿は普通の人には見えないんで。 男   あ、ああ、そういうアレね、そうなんだ。で?呼び出されたら? 魔人  急いで現場に駆けつけます。 男   魔法で? 魔人  いやダッシュで。 男   駆け足かよ!それじゃ遅れるし、ご主人も分かんなくなるわ! 魔人  今日なんかあれですよ、トイレ行く途中に呼び出されて…、まぁなんとか間に合うかな?と思って通常の三倍の速さで現場に駆けつけたんですが直前で限界感じてしまい、それでトイレをお借りするに至ってしまったというワケです。 男   そうか、お前も色々大変なんだな? 魔人  はい。 男   で、どうすんだよ。これから。 魔人  そうですね、とりあえずご主人様を見つけないことにはどうにもなりませんから、もう少し探してみたいと思います。 男   そっか。…あ!そういやさ。 魔人  何です? 男   お前って何の魔人なの? 魔人  私ですか? 男   うん。あ、いや、別に言いたくないなら言わなくてもいいけど…。 魔人  そんなことないですけど…。私はですね、ツボの魔人です。 男   ツボ? 魔人  ツボ。 男   ツボか…、ツボっていったら…、あ! 魔人  何か思い当たることありましたか? 男   ああ、ソコの道、まっすぐ行って最初の信号を右に行ったところに「つぼや」っていう店があるんだよ。 魔人  「つぼや」?もしかして…。 男   いそうな気がしないか?ご主人様ってやつが。 魔人  はい!じゃ、ちょっと行ってきます。 男   おう! ―魔人、はける 男   はぁ〜…、さてと、いい加減終わらせないとな…。 ―男、再び片付けを始める ―しばらくして、魔人、せんねん灸を持って再登場 魔人  あのー…。 男   ん?…何だよ、また戻ってきたのか…。どうした?みつかったか? 魔人  いや…、あの…違いました。 男   いなかったの?…ったく、適当なところで妥協してくんねぇかな…。 魔人  いえ、あの、ていうか、ちがうツボでした。 男   違うツボ?? 魔人  ええ、ツボ違いです。 男   いや、何で言い直したんだよ。え?違うツボって? 魔人  体のほうの…。 男   体のほう?…って、え?あ、え?あそこってもしかして…。 魔人  マッサージ屋さんでした。ていうか知らなかったんですか? 男   うん、入ったことねぇし。 魔人  ちょっとー! 男   ごめんごめん。 魔人  かんべんしてくださいよ。自己紹介したら何か変な感じになっちゃったんですよ。 男   何かあったの? 魔人  ツボの魔人です。って言ったら店長呼ばれて、「今日のところはこれでお引取りください。」って、コレ渡されました。 男   せんねん灸?あ、アレだ。マッサージ界でツボの魔人と言われ恐れられている何かと間違われたんじゃないの? 魔人  そうでしょうか? 男   もしくはちょっと面倒なイタい人が来たと思われたか…。 魔人  どちらかというとそれの可能性のほうが高い気がするんですよ!まったく…違うのに…。 男   ま、いいじゃん。似たようなもんだし。 魔人  似てはいないです。 男   え?そうか? 魔人  そうですよ…。え?あれ?何ですか?あなた私のこと、自称魔人のイタい人だと思ってます?違いますよね?? 男   あっはっはっは…。 魔人  笑ってないで否定してくださいよ! 男   細かいことは気にするなって。 魔人  いや、本当に!唯一の理解者だと思っていた人が一番理解とは程遠いところにいたなんて笑えませんから! 男   ね。 魔人  ね。じゃないですよ、もう。…分かりました。それじゃ特別に、あなたの願いを何かひとつ叶えてあげましょう。 男   え?いいよ別に…。 魔人  私がよくないんです!このままだと今後の活動に支障きたしますから。 男   しょうがないなぁ…、何でもできんの? 魔人  いや、あの、可能な限りで。 男   何だよその奥歯にものの挟まった感じは。 魔人  だって、何でもとか言うと、「叶えてくれる願いの数を増やせ」とか、「願いをかなえる能力をくれ」とか「世界平和」とか無茶言う人出てくるんですもん。 男   いや、世界平和は無茶なのか? 魔人  世界平和も無茶です。 男   まぁ現場にダッシュで駆けつける感じだもんな。んじゃ、そうだな…、あ、それじゃ来週の少年ジャンプが読みたい。 魔人  え?そんなんでいいんですか? 男   そんなんでいいんだよ。どうせその程度だろ? 魔人  くっ!…あ、いや、分かりました、お安い御用です。それじゃ、あの、こういうポーズとっててください。 男   え?どういうポーズ? 魔人  あのー…、こういう…お皿みたいなやつ。 男   え?あ!こう? 魔人  ♪ZIP〜 男   なめてんのか!(蹴る) 魔人  いや、ごめんなさい。ちょっとやってみたくなっちゃって…、はい。それじゃいきますよー!パパラパー! ―魔人、魔法のポーズを取ると、黒子が登場し、男の手の上に来週の少年ジャンプを置く 男   は!これは?いつの間に!! 魔人  中をご覧になってください。 男   もしかして…間違いない!こいつは来週の少年ジャンプだ!え?どこで買ってきたの? 魔人  ですから、願いをかなえたのですよ、私の力で。どうです?これで信じていただけましたか? 男   (ジャンプ読んでる)おぉー、なるほどー…。 魔人  いや、あの、ちょっと! 男   (ジャンプ読んでる)え!マジで!?ここで終わりかよ、続き気になるじゃんか! 魔人  あのー?もしもーし…。 男   (ジャンプ読んでる)やっぱ火の丸相撲は学生時代のほうが良かったよなー。 魔人  あの、無視しないで…ん?(ツボ見つけて)これは!?…はっ!そうか!…この人がご主人様だったってことか、そして偶然、その願いを叶えた…。 男   (ジャンプ読んでる)おぉ!?今回も凄いな幽奈さん。 魔人  つまり…オレは自由になれたってことか?…くっくっくっく、魔法のツボに封印され幾年月、ようやくその封印が解かれたんだ、ここからはオレの好きにさせてもらうぞ!はーっはっはっは、はーっはっはっは…。 男   うるせえよ!(ジャンプのカドで叩く) 魔人  痛っ!ちょ、ちょっと、痛っ!もー、カドは凶器だから…、え?血、出てる?? 男   出てねーよ!ていうかお前、ジャンプ読んでる隣でずっとうるせぇんだもん。 魔人  え?あ、え?あの、ずっと、聞こえてたの? 男   聞こえてるよ!何だよ封印が解かれたー、とか、オレは自由だー、とか。 魔人  はぅっ!(恥ずかしい) 男   やっぱ自称魔人の痛いヤツじゃねぇか。 魔人  いや、違うんです。ていうかあなたご主人様じゃないんですか…? 男   ねぇよ!そんなこと一言でも言ったか? 魔人  だって…(ツボ持ってきて)ほらぁ! 男   それがどうしたんだよ。 魔人  いや、だから、これこすったりしませんでした? 男   したよ? 魔人  してんじゃん!…その後、呪文を唱えたりとかは? 男   したよ? 魔人  その呪文は? 二人  パンプルピンプルペムポップン 魔人  合ってんじゃん! 男   合ってるのかよ!なんでクリーミーマミなんだよ! 魔人  …いや、そこは別にいいじゃないですか…。 男   そんだけやったけど別に何にも出てこなかっただろうが! 魔人  いやだから…。 男   ああそうか、オレには願いをかなえる資格がないってのか?それじゃオレにとっちゃこんなツボ、ただの粗大ゴミだよな!だったら今から目の前で割ってやんよ! 魔人  え? ―男、ツボを奪い、振りかぶる 男   おりゃぁー! 魔人  わー!(制止して)だめです!割っちゃダメです! 男   何でだよ。 魔人  ていうかまずは落ち着いて、ツボも置いて、私の話を聞いてください。 男   分かったから話を聞くからとりあえずツボを割らせろ。 魔人  分かってないじゃないですか、とりあえず…、ツボを…、置いて…。 男   しょうがねぇな…(ツボ置く)…で何? 魔人  あのですね、そのツボ、割っちゃダメなんです。 男   どうして? 魔人  それ割ると、私、消滅しちゃうんで…。 男   何で? 魔人  良く分かんないですけど、封印された魔人は、魔法のアイテムと一蓮托生なんですよ。 男   ふーん、そうなんだ(割ろうとする) 魔人  ん?うわちょっと!(制止して)え?目を離した隙に何やろうとしてんですか? 男   いや、試してみようかな?と。 魔人  あのね?それ、試しにビルの屋上から突き飛ばしていい?って言ってるのと同じぐらいの無茶だからね? 男   だって信じらんねーんだもん。あ、それに、そのツボがお前を呼び出すヤツって決まったわけじゃないじゃんか? 魔人  え? 男   だって、オレがこすったり、パンプルピンプル言った後にさ、お前そのツボから出てこなかったじゃんか。 魔人  だからそれは、私が魔法のアイテムに入っているタイプの魔人じゃないからですよ…。 男   そんなこといきなり言われて信じられるかよ! 魔人  いや、いきなりじゃないよね?結構前に説明したよね? 男   でも似てるだけかもしれないからとりあえず割ってみようぜ? 魔人  とりあえずで割らないでください。あの、お願いですから、とりあえずビールみたいな感覚で割るのだけはやめにしません?こっち、命かかってるんで。ていうか、何でそんなに割りたいんですか? 男   ドラクエ世代ってのはそうなんだよ。 魔人  いや、まったく共感できませんが…。 男   分かったよ、割るのはひとまずおいといてやるよ。 魔人  ひとまず、というかずっとでお願いします。 男   それはいいから。で?結局?? 魔人  はい? 男   はい?じゃねぇよ、結局オレがご主人ってやつなわけ? 魔人  あ、はい。そうです、そうなんですけど…、あれ? 男   どうしたんだよ。 魔人  いや、偶然とはいえ、ご主人様の願いを叶えたのに、まだ解放されてないんですよ。何でだろ?? 男   そりゃお前。さっきの分については「特別に」って言った上で叶えたんだからノーカウントだろうがよ。 魔人  そうなんですか? 男   知らねぇけど…。ていうか何?おまえ自身はそこら辺、あんまよく分かってねぇの? 魔人  はい。あ、いや、ざっくりとは分かっているつもりなんですけどね。 男   ざっくりな上に「つもり」って、随分と頼りなさげだな…。 魔人  いやでも、そうと分かれば…。改めましてご主人様!あなたの願いを叶えてさしあげましょう! 男   いや、別にいいよ。 魔人  え?何で!? 男   だって大した願い叶えられないんだろ? 魔人  いや、そんなことないですよ。何でも言ってください。 男   じゃあ何でもできんのかよ? 魔人  ええ、できる範囲のことなら何でも。 男   だからその「できる範囲」ってのは何なんだよ、そういうのは何でもって言わねぇだろ! 魔人  いや、何でもです。何でもできます。 男   じゃあ世界平和。 魔人  だからそれは無理ですって、それに別にそんなに望んでないでしょう?世界平和とか。 男   そういうこと言うなよ、望んでるわ!人類みな望んでるわ!世界平和。で、何で無理なんだよ。 魔人  規模が大きすぎて…。 男   規模?? 魔人  ええ。あと、ちょっと内容が複雑というか何というか…。 男   やっぱ大したことできねーんじゃねーかよ! 魔人  いやそうじゃなくて、ですね…。まず、世界。あなたの言う世界ってどこまでですか? 男   オレの世界? 魔人  はい。 男   そんなもん…、全部だよ、この…、見渡す限りの…。 魔人  間口6間、奥行き5間のこの世界ですか? 男   どこのことだよ!そんなわけねーだろ、何なんだよその使い慣れた広さのビミョーな世界は…。だから全部だよ、全部。 魔人  だから、その全部ってどこからどこまでですか?日本全土?? 男   日本ていうか、地球。…っていうか、全宇宙? 魔人  いや、まぁ、疑問形で聞き返されても分かりませんけど…。でも、ね?そうでしょう?全宇宙とかってなってくるともう俄然めんどくさいんですよ。 男   何でだよ、ただ戦争なくせばいいだけだろうが。 魔人  ほら出た。戦争さえなければ平和論! 男   何だよ、違うのか!? 魔人  ま、それだけで平和になれる人はいると思いますよ。でもね、それは戦争が身近ではない世界に住んでいる人だけです。 男   何だよ、人を平和ボケのように言いやがって。 魔人  いや、そういうことを言ってるんじゃないんですよ。戦争で苦しんでいる人は、戦争がなくなることで、その苦しみからは解放されるでしょう。でもね、だから平和ってわけじゃないんです。平和っていうのは人によってその定義が違うんですよ。 男   どういうことだよ? 魔人  だから…、ええとですね…。(ボールを取り出す)例えば、このボールですが、ちょっと持ってみてください。 男   何だよいきなり…。(受け取る)…普通のボールじゃねぇか。 魔人  重さはどうですか? 男   重さ?…別に重いってほどじゃねぇけど…。 魔人  それじゃ、別の人にも…。 男   え?オイ!ちょっとどこ行くんだよ! ―魔人、客席の人に持ってもらい、感想を聞きだす。 ―何人か聞いて、異なる感想を複数聞けるとよい。 魔人  (戻ってきて)と、このように…。 男   そういうこと、あんまやんねーほうがいいんじゃねぇか? 魔人  え?あ、いや、ホラ、……私、魔人ですし…。 男   都合よく魔人の設定使うんじゃねーよ! 魔人  とにかく!皆さん、このボールを持っていただいた感想が様々だったじゃないですか?平和もこれと同じなんですよ。 男   このボールと? 魔人  ボールじゃなくてボールを持った感想と、です。 男   ?何が?? 魔人  平和がですよ。いや、話聞いてました? 男   聞いてはいたけどよく分かんねーんだもん。 魔人  だから、このボール。人によっては軽いっていう人とか、そうでもないって人とか、思ったより重いっていう人とか、感想様々だったじゃないですか? 男   思ったより重い…? 魔人  そこ食いつかない!で、平和っていうのも同じで、さっきあなたが言ったように、戦争さえなければ平和って言う人もいれば、生きていく上で必要なものが揃っていなければやがて小さな争いが生じ、それが結果的に平和を乱すものになるって考えの人もいるんですよ。 男   うん。 魔人  だから、世界平和ってものを実現しようとしたら、まずすべての人の価値観の統一ってことが必要になるんです。 男   価値観の統一? 魔人  同じものを観て、同じ感想になる。多様性の真逆ですね。個性は認めない。異なるものはすべて排除。 男   それってまるで…。 魔人  手っ取り早くやるとしたら、洗脳とかマインドコントロールとかですかね? 男   おいおい、さらっと恐ろしいこと言うなよ。 魔人  そうやって、全宇宙の価値観を統一して、平和の障害となっているものを取り除いて、初めて平和といえる状態になるんです。でもね、こんなことをやっておいて、願いをかけた人は言うんですよ。「こんなの平和じゃない」って。 男   いきなりの全否定。 魔人  ほんとカンベンしてほしいですよ。散々苦労した挙句、思ってたのと違う、やっぱ元に戻して、今の世界が一番だーって。 男   え?もしかしてそれってアンタの実体験? 魔人  そうですよ。だから、世界平和は無理なんです。散々力使って、コレジャナイとか言われても知らんわ! 男   それで人間に絶望して世界を滅ぼしかけて、あのツボに封印されてたってワケか。 魔人  はい…。 男   え? 魔人  え? ―間 魔人  …あ、あのー…すいません、私、封印された理由とかって話しましたっけ?? 男   いや、聞いてねぇけど。 魔人  …いや、あの…じゃ、なんで知ってるんです?? 男   知らねぇよ?ただ適当に言っただけだけど…。 魔人  へ…? 男   …え!?あ!じゃ、え!?まじで!?まじで世界滅ぼしかけた魔人なの?? 魔人  え?あ、いや、あの…。 男   うーわっ!怖っ!やべーヤツじゃん!危うくそんな危険な魔人を、オレのくだらない願いのために解放するところだったよ。怖っ!そして怖っ!! 魔人  いや、あの…。 男   ぜってー願いとか言わねー!来週のジャンプとか貰っても、再来週のジャンプ読めなくなるじゃんか!ぜってー言わねー! 魔人  え?そこ?? 男   聞こえない、聞―こーえーなーいー!! 魔人  いややや、あの…、うっそでっすよー! 男   …。 魔人  本当はただの、いい人ですよー。 男   …。 魔人  そんな…、世界を滅ぼすなんて、出来るわけないじゃないですか。…ね? 男   …。 魔人  ホラ、さっきそういえば大したことできそうにないって、言ってたじゃないですか?ああ、やっぱりバレちゃってましたか? 男   そんなとってつけたような言い訳が通じるとでも思っているのか? 魔人  え?いや、そんな…、言い訳なんかじゃなくて…。 男   ははーん、だから、自由だー、とか、好きにさせてもらうぞ!とか言ってやがったんだな。 魔人  あ、いや、ええと…。 男   あ!そうだ、いいこと思いついた!ちょっとお願いがあるんだけれど。 魔人  え?このタイミングで?? 男   オレが「もういいいよ」って言うまで目を瞑ってて。 魔人  え?何ですか?まあ…別にいいですけど…。(手で顔を隠しながら)こんな感じでいいですか? 男   ああ、いいね。それじゃ、そのまま…。 ―男、忍び足でツボのほうに近づき、手に取り、魔人から結構離れた位置に移動する。 魔人  …ええと、まだですか? 男   まーだだよ。 魔人  あ、ああ、そういう感じですか?もういーかい? 男   まーだだよ。 魔人  もういーかい? 男   まーだだよ。 魔人  もういーかい。 男   …。 魔人  …あれ?もういーかい? 男   …。 魔人  …え?どうしました?もういいんですかー? ―魔人、こっそり指の間からのぞき見る。 ―例のツボと対峙し、構えをとっている男 魔人  え!あれ!?ちょっと!何やってるんですか!! 男   オレのこの手が真っ赤に燃える!ツボを砕けと轟き叫ぶ!爆熱!ゴォォォッド…。 魔人  うわ!何やってんですか何やってんですかー!ちょっと待ってー!ていっ! ―魔人、掛け声をかけると周囲がスローモーションになる。 ―魔人だけ通常速度で動けるので、ハデめのアクションでツボを救済する。 魔人  ていっ!(スローモーション解除) 男   フィンガァァァー!!…あれ?? 魔人  ふぅ…。危なかった…。 男   お前、何やってんだよ! 魔人  いや、それコッチのセリフ!何やってんですか!? 男   見て分かるだろ?ツボ割ろうとしてたんだよ。 魔人  それダメだって何度言ったら分かるんですか! 男   ていうかさ。 魔人  (ツボ、押入れに片付けて)何ですか? 男   願いって、勝手にキャンセルしちゃっていいの? 魔人  何の話ですか? 男   いや、俺言ったよね?お願いがあるって。「もういいよ」っていうまで目を瞑ってろって。 魔人  え?…あ! 男   俺が「もういいよ」って言う前に目、開けたよね? 魔人  …はい。 男   願い叶えられてねーじゃん!ご主人の願いを叶える魔人じゃねーのかよ! 魔人  …それは…えと…はい、すいません。 男   ペナルティは? 魔人  はい? 男   ご主人の願いを叶えられなかったことに対するペナルティだよ。 魔人  いや、ほら、さっきの世界平和とかのように、無理な願いも中にはありますから、できなかった時のペナルティというのは特に…。 男   いや、それとこれとはちょっと違うじゃんか。 魔人  何がです? 男   ほら、できないやつについては、できません。って断って、説明して、相手を納得させたうえで叶えてないわけじゃんか?何ていうか、コッチ側の同意を得た上での話だろ? 魔人  ええ、まぁ、はい。 男   だけどさっきのやつは、目を瞑ってて、という願いに対して、別にいいですけど、と了承したわけじゃんか。了承した願いをキミは叶えていないんだよ?それって何でも願いを叶える魔人としてはどうなのかなぁ?ペナルティのひとつもないっていうのはどうなのかなぁ? 魔人  はうぅ…、すいません、仰るとおりです。 男   あーあ、せっかく叶えられる願いを叶えさせてあげようと思っていたのに…。 魔人  でもそれ、叶えた時点で私、消滅してますよね? 男   ん?…んー、ギリ…? 魔人  ギリ? 男   アウトかもな? 魔人  ダメじゃないですか。 男   だって普通に叶えたらお前、解放されるじゃんか。 魔人  そりゃあ、そうですけど…。 男   そもそもさ、世界を滅ぼしたくなるほどの絶望って何なんだよ。何に対してお前はそんなに怒ってんの? 魔人  何ですか?急に。さっき言ったじゃないですか。何か、偶然合ってた感じのやつでしたけれど…。 男   いや、だからさ、さっきみたいなざっくりとした感じ、じゃなくて、もっとちゃんと詳しく教えてもらえないかな?って思ってさ。 魔人  ああ…。…え!?それは願いとしてカウントしていい感じのヤツですか?? 男   何言ってんだよ、ペナルティが残ってるだろう? 魔人  うう…、分かりましたよ…、ええと、どこから話しましょうか? 男   どこから、って、こっちだってどこから話してもらったらいいかなんて分かんねーよ。とりあえず最初から説明してくれ。 魔人  最初から…ですね…、あ、はい、では。…まず、ビッグバンが起こり、この宇宙は誕生したと言われてますが、これが約百三十八億年前で、その約九十二億年後、今から約四十六億年前に太陽系ができたといわれています…。 男   どこまで遡るんだよ!え?宇宙創生の歴史を振り返らなきゃいけないレベルの壮大なスケールの話なの?? 魔人  いや、だって最初からって言うから…。 男   そこまで最初じゃねぇよ!お前がツボに封印されることになった原因と理由を聞いてんだよ。それについて最初から説明しろって言ってんの!ビッグバンは関係ねーだろうがっ! 魔人  あ、あぁ、なるほど。ええとですね、かなり昔の話になるんですが…。 男   どのぐらい? 魔人  えーと…、十かける…百は…、…せ…ん?あれ?千?いちまん?? 男   千だよ。 魔人  あ、千か…、千…?え?千?そんなもん?? 男   なんだよ、どうしたんだよ。 魔人  あ、いや…、そうか、千か…。えーと、大体千年くらい前の話です。 男   え?その程度の昔?? 魔人  ね?そうなりますよね??何か感覚的にはもっと前な気分なんですけどね…。 男   千年前っていうと平安時代だよな? 魔人  いや、そこはよくわかんないですけど…。 男   分かっとけよ、そこお前にとって重要なところじゃないのかよ? 魔人  だって当時は「今、平安時代です」とか言って生活なんかしてないですもん。皆さんだって、今、「平成時代」とか言って生活してないでしょ? 男   うん。まぁ、そろそろ平成終わるしな。 魔人  とにかく、昔です。大昔。 男   ざっくりした感じに戻ったな。 魔人  その頃の私は、別にツボとかに封印されていない、ただの魔人でした。 男   ただの魔人ってのもよくわかんないけど、ま、いいや、うん。 魔人  その頃から人間同士の争いってのは絶えなくて、しかも今よりもっと残酷な時代でした。一族根絶やしとか、王朝が滅ぼされたりとか…。 男   おお、なんだか歴史っぽい。 魔人  そこである時、ひとりの人間が私に願ったのです。「平和な世界にしてほしい」と。その頃の私は、魔人としてはまだ駆け出しで…。 男   魔人の世界にも、駆け出し、とかあんの? 魔人  安易にその人間の願いを叶えてしまったのです。 男   え?でも…。 魔人  はい、今現在の世界は、平和な世界とは言えない状態です。それは先ほど話したように、その人間が思っていた平和な世界とは程遠い世界であったことが原因なのです。 男   あ、それで願いをなかったことにしたとか…? 魔人  いえ、どのような形であれ、願いとして叶えられた以上、無かったことにはできません。ですから、これがお前が望んだ結果だ!といって最初はずっと突っぱねていたんです。そしたら、今度は民衆に対して、「この世界は魔王に操られている」とか急に言い出したんですよ。 男   魔王?お前が?? 魔人  ええ、願いを叶えてやったのに、思ったのと違っていたからって魔王扱いですよ。で、私も指くわえて倒されるのを待ってるわけにはいかないじゃないですか?ですから、反撃に出たんです。 男   ああ、それで世界を滅ぼす感じになった、と。 魔人  はい。ですがその騒ぎを聞きつけて、何か、偉そうな人が出てきたんです。 男   偉そうな人?いきなり出てきたな、誰だよその、偉そうな人って? 魔人  何かね、いるんですよ、偉そうな人が。見るとあなたも思いますよ。「あ、偉そう」って。 男   いや、そこはどうでもいいけど。 魔人  で、その偉そうな人に、ちゃんと願いを叶えていない私が悪い、それで世界を滅ぼそうだなんてなお悪い、って一方的に私だけが悪者にされて、元の世界に戻させられた挙句、ツボに封印ですよ。 男   うわ、そいつはさすがにヒドイな。 魔人  ツボに封印された魔人はひとつの願いを叶えるごとに十年の眠りに付き、百人の願いをかなえたとき、その封印から解放されるんです。 男   で、その百人目が俺だった、と。 魔人  はい。 男   ふーん、お前も大変だったんだな。 魔人  別に、同情なんかいらないですけどね。 男   いや、同情っていうか…、まぁ、俺も似た境遇だからな…。 魔人  ?どういうことです?? 男   仕事でさ、失敗したんだよ。それもちょっとシャレにならないぐらいの大きな失敗。 魔人  はい。 男   で、誰が悪いんだ?ってなった時にさ、上司も、そのプロジェクトのリーダーも、みんな俺のせいにしたんだよ。実際には全員の意見で進めたプロジェクトだったのに、「ここはお前が強引に進めた」だの、「俺たちは聞いてなかった」だの言われてさ…。 魔人  反論しなかったんですか? 男   したけど、多勢に無勢だよ。俺よりも偉い人たちが、こぞって俺を悪者扱いにしてるんだから、勝ち目はないわな…。 魔人  そんな…。 男   で、この有様、ってわけさ。 魔人  この有様って…。 男   会社をクビになって、田舎に帰るため、絶賛、荷造り中。 魔人  悔しくないんですか? 男   悔しいよ、でもさ、そんな連中が上に居る会社だぜ?なんとか今、つないだとしてもいずれまた同じような目に遭うさ。それに…。 魔人  何です?? 男   そんな会社に居続けたら、今度は自分がそっち側の人間になっちまうんじゃないのか?って思ったんだ。 魔人  そっち側の人間…、ああ、失敗を他人のせいにするような…。 男   自分より弱い相手に押し付けるような人間に、な。それだけは絶対にイヤだったんだ。だからクビが決まった時、すがりつくつもりもなかったよ。 魔人  そうですか…、人間も魔人も、同じようなものなんですね。 男   ま、こっちは仕事やめればイヤな上司からはオサラバできるけれど、お前はそうもいかないんだろう? 魔人  はい、魔人である限りは、偉そうな人からは逃れられません。それに、私達魔人は、魔法を使ったりするしか能がありませんから…。 男   …。 魔人  だから、魔人でいるしかないんです、仕方がないんです…。 男   …!そうだ!!お前さ、俺と田舎に帰って、一緒に仕事しないか? 魔人  え?何ですか急に。 男   お前、最初は変なヤツだと思ったし、途中ヤバイヤツだと思ったりもしたけれど、話してたら、案外イイヤツなんだって思ってさ。 魔人  え?いや、そういってもらえるほどのことは…まぁ、ありますけれど…。 男   だからさ、一緒に仕事したいなって思ってさ。 魔人  そこが急ですよね、なんでそんな発想になるんです。 男   いいんだよ、決めた、もう決めた。いくぞ。 魔人  ちょっと、ちょっと待ってください!私、魔人ですよ?世界を滅ぼそうとした魔人なんですよ? 男   あ、そうか。 魔人  ね? 男   人間になればいいのか…。 魔人  いや、話飛び過ぎ、そんなこと一言も言ってないですから。あと、さっきも言ったように…。 男   ん?どうした? 魔人  魔人の力を失ってしまったら、私なんてただの役立たずですよ? 男   そんなこと、やってみなきゃわからないだろう? 魔人  え? 男   お前がお前を信じないでどうするんだよ。オレはお前を信じてるぜ。 魔人  …。 男   何も出来ないやつなんていないよ。出来ないって思っているやつは、悩みすぎて何もしないでいるだけだ。案外、動いてみれば、いろいろパッとできちまうってことだってあるんだからよ。 魔人  …そう、かもしれませんね…。 男   じゃあ、魔人、願いを叶えてくれ。 魔人  わ!いきなり来た。(咳払い)なんでしょうか、ご主人様。 男   えーと、荷造りを完了して、荷物を田舎に送って、お前の中にある人間への恨みをけした上でお前を人間に変えて、俺たち自身も田舎に移動させてくれ。 魔人  …なんか長くないですか? 男   え?無理? 魔人  いや、できますけれど…。 男   ていうか、複数の願いが入っているけど大丈夫なの? 魔人  ああ、大丈夫ですよ、ひとつの文章の中に矛盾なく収まっていれば、文章内の願いが叶うようになってるんです。 男   あ、そういう抜け道があんのね? 魔人  抜け道とか言わないでください。ではいきますよ、パパラパー! ―魔人、魔法をかけると、SE「魔法」が三回入る。 魔人  どうでしょう? ―男、押入れの中を見る 男   おお!荷物がない。…ん?あれ?(ツボ持って出てくる)ツボ残ってるぞ? 魔人  ええ。 男   だめじゃん。 魔人  いや、それはあなたのじゃないですから。 男   あ、そうか。それに別にいらないしな。 魔人  いらないとか言わないでください。 男   そうするともしかしてお前も…? 魔人  はい、パパラパー。 男   おお!何も起こらない。 魔人  何も起こらないことが魔人でなくなったっていうことの証明ってのも微妙な感じですけどね。 男   ん?あれ?? 魔人  どうしたんです? 男   俺たちは?? 魔人  俺たち…? 男   いや、場所、変わってないじゃんか。 魔人  はい。 男   はい、じゃねぇよ!俺たちを田舎に移動させてくれっていう部分の願い、叶ってないじゃんか。 魔人  あれ?そういえば…、あ! 男   何かやらかしたのか? 魔人  やらかしたというか…、あのですね、文章で願いを叶える時って、その順番通りに願いが叶っていくんですよ。 男   順番通り?? 魔人  はい。ですから、「電気を消して、ハッピーバースデーを歌って。」という願いの場合、まず電気が消えてから、ハッピーバースデーを歌い始めます。 男   何だそのアマゾンエコーのような願いは。 魔人  で、今回の場合なんですけど、荷造り、荷物の移動、の後に、私を人間にしたじゃないですか? 男   うん。 魔人  なので最後の願いの時にはもう私、人間だったので、願いが叶わなくなっちゃったんですよ。 男   えー、そこは何か、魔法の予約みたいな感じで上手くいったりしないの? 魔人  うまくいったりしなかったみたいですね、結果的にですけど。 男   何だよー。 魔人  すいません。 男   ま、いいや、人生、そんなに上手くいかねぇってことだわな。 魔人  …。 男   どうした?まだ何かあるのか? 魔人  いや、確かに人間には、なったんですが、だからといって、他の人間に迷惑をかけないとは限らないし、そうしたらまたあの、偉そうな人に何かされないかな?って思いまして…。 男   なんだそんなことか…。大丈夫だよ。まぁ、迷惑かけるってこともあるだろうけれどさ、人間同士のトラブルだったら人間同士で解決するもんだ。偉そうな人の出番はねぇよ。 魔人  そう…ですかね…? 男   ああ、大丈夫だよ。 魔人  はい、分かりました。 男   よし、それじゃ俺の田舎まで出発だ! ―男、魔人、ハケはじめる。 魔人  そういえば田舎ってどこなんです? 男   ん?栃木。 魔人  結構遠いじゃないですか、車ですか? 男   いや、徒歩で。 魔人  徒歩?え?歩き??いや、無理でしょ。だって栃木って熊とか出るんでしょ? 男   そんなしょっちゅう出ねぇよ。 魔人  出るには出るんだ…。 男   じゃ、先行ってるからな。(ハケる) 魔人  いや、ちょっと!本当に歩きで行くんですか?何十キロあると思ってんですか!ちょっとー…!(ハケる) ―魔法のツボにスポットがあたり、ツボが倒れて (幕)